彼女(彼氏)欲しいなあ・・・




 

 学内コンクールが終わって、しばらく経った。

 クラスメイトとして一年と数ヶ月を一緒に過ごしてきたが、最近月森は変わったと皆が噂している。

「なあ月森」

 席が前後だから、何かと話す機会は多い。

 今まではとにかくとっつきにくい男だったが、最近はそうでもなくなってきた。

「何か?」

「聞きたいことがあるんだけど」

「・・・俺に答えられることであれば」

 今まで散々言われてるんだろうなと思いつつ、でもやっぱり聞かずにはいられなかった。

「日野さんと付き合うようになって、どう思う?」

 月森の顔が微妙な表情をした。

 おそらく今までだったら「関係ない」の一言で一蹴されていたと思うのに。

 何故「微妙な顔」なのか。

「君の質問は、答えづらい」

「答えたくないとかじゃなく?答えづらい?」

「ああ」

 聞いた俺が不思議そうな顔をしているのに気がつくと「ああ、・・・いや」と小さく咳払いした。

「『付き合っているのは本当なのか』という類の質問が多かったんだが、君のように聞かれたのは初めてだから」

 付き合うようになって、どう思う?

 それが、答えづらいのはどうしてなんだろう。

「彼 女と一緒にいる時間は、俺の音楽を豊かにしてくれる。それだけじゃなく、俺個人としても。ヴァイオリンを一緒に演奏している時でも、他愛のない 話をしている時でも、感性が磨かれていくようだと、俺は思っている。ただそれを『どう思うか』と問われると、正直、よくわからない」

「難しく考えすぎなんだよ」

 今度は月森が不思議そうな表情をした。

 こんなことに答える月森も珍しいけど、表情が豊かになってきた月森も、・・・彼女のおかげなんだろうな。

「つまりは日野さんの影響で月森の音楽が変わるかもしれないことに不安があるんだろ?実際君の音楽は変わってきていると思うけど。悪い方向じゃないんだから、素直に受け止めたらいいんじゃないのかな、と俺は思うよ」

「・・・素直に、受け止める・・・」

 月森が意外だと言いたげに呟いた。

 十数年間かけて築いてきた自分の音楽が、あっさりと変わってしまう不安っていうやつも、同じ音楽を奏でる者としてはわからなくもない。月森ならば尚更だろうと思う。

「まあ、あとは君がどれだけ日野さんを信じて変われるかだね、楽しみにしてるよ」

 とだけ言い置いて、俺は席を立った。


 後で聞いたところによると、俺と話した後に難しい顔で考えていたかと思うと、突然顔を赤らめたらしい。

 一瞬皆固まったんだと聞いたら、その場にいなかったことが悔やまれた。


 この年で、君の音楽を変えるほどの女性に会うなんて、この先きっとないぜ。

 だから、何を言われても大事にしなよ。

 ・・・それにしても。


「羨ましすぎるぜ、月森。あーあ、俺も日野さんみたいな彼女欲しいなー」


 誰にともなく呟いた大きな独り言は、大きな空へと消えていった。









ヒトリゴト。(ブログより


たーのーしーいいいいい(壊れ気味

ホントこのお題、楽しいです。

 

2010.7.25UP