ああ、神様・・・




 

 香穂先輩と菜美先輩の三人で、駅前通りのカフェにいた時だった。

「あ、香穂さんだ」

 オープンテラスのカフェはたくさんの人で賑わっていたのに、加地先輩はいとも簡単に私たちを・・・正確には香穂先輩を・・・見つけてみせた。

「天羽さんに冬海さんも。皆でお茶してるの?僕も混ぜてもらってもいいかな」

「ガールズトークできないじゃないの」

 菜美先輩が口を尖らせた。

「僕が聞いた所で何か支障があるのかな?」

 と加地先輩が不敵に笑う。ストーカー加地、と菜美先輩が呟いた。

「何か言った、天羽さん?」

「いいええ、何もー」

「ガールズトークで思い出したけど」

 加地先輩が何でもないことのように言ったそれは、私たちを驚かせるには充分すぎるほどだった。

「月森、大学卒業しても日本に戻ってこないかもしれないそうだね」

 私は咄嗟に香穂先輩を見た。

 先輩は・・・どう言い表していいのかわからない、むしろ無表情と言うべきか、そんな顔をして黙ってケーキを見ていた。

 天羽先輩が気遣うように香穂先輩を呼んだけれど、反応がない。

「なんで知ってるの?ニュースソースは確かなの?」

 三人の中で一番立ち直りが早かった天羽先輩が問うた。

 うん、と加地先輩が頷く。

「僕の母がね、月森の母上から聞いてきたんだ」

「・・・香穂・・・」

 そう聞いた香穂先輩は、それでもなお、俯いたままだった。

 私は思わず両手を握り締めた。

「院に進むかもしれないらしいんだ。珍しく迷ってるみたいで、母上に相談したらしい」

「何を迷ってるの?」

「僕にはわからないけど・・・」

 音楽を極める為に、香穂先輩を日本に置いてまで旅立った月森先輩が、何を迷って院に進むことを躊躇っているのだろう。その原因に香穂先輩の存在があるのなら、私は香穂先輩を選んで欲しいと思った。

 香穂先輩は相変わらず何も言わない。

「ねえ、香穂さん」

 加地先輩が穏やかに、けれど有無を言わせない口調で話しかけた。

「あいつが院に進んだら、少なくても2年はまた今までのような状況が続くと思う。君は・・・会いに行かなくていいの?」

「・・・行けないよ」

 小さく、小さく。

 香穂先輩が言った。

 その言葉を拾ったのは恐らく私だけだろう。

「行けないよ。今更何を言えっていうの?忘れられないのは私の勝手なんだから、月森くんが他の誰かを選んでいたとしても、私には何も言う資格なんてないよ」

「・・・・・・」

 先輩二人が黙り込んだ。

 私はなす術もなく三人のやり取りを見ているしかできない。

 ああ、神様。

 お願いですから、月森先輩と香穂先輩を、もう一度出会わせてあげてください。

 もう一度、チャンスをあげてもらえませんか。

 香穂先輩が、こんなに辛そうにしてるのを、見ていられないんです。

 思わず、口に出していたらしかった。

「・・・冬海ちゃん、ありがと。でも大丈夫だよ」

 香穂先輩がにっこり笑った。

 でも高校の頃・・・月森先輩がまだいらした頃・・・は、もっと明るい笑顔だった気がする。

 そういえば最近香穂先輩の心からの笑顔を見ていないことに気がついた。



 お願いです、神様。

 また出会わせてあげてください。



 そう願ったのが功を奏したのかはわからないけれど、しばらくしてからお二人が結婚されると聞いた。

 加地先輩のお手伝いで月森先輩が帰ってきて、香穂先輩と再会したのだと聞かされた時には、言葉にできない喜びで体が震えた。

 やっぱり月森先輩と香穂先輩は、運命の糸で繋がっているんだ。

 私は、このお二人がずっとずっと幸せでいてほしいと、心から祈っている。

 二人の幸せそうな笑顔をみていたいから。










ヒトリゴト。(ブログより



このお題は冬海ちゃんでいこうと決めてはいたのですが、ずっと書けずにおりました。

所々気になる箇所はありますが、一発書きがここのモットーなので(汗

 

 

 

2010.8.1UP