あなたのせいで心配性になったのです

 




 いつだって、送り出すほうは不安に取り残される。
 過去に経験があるから、いつものやりとりとはいえ、臆病になる。





「いってらっしゃい」

「ああ」

 行ってくる。
 そう言って背を向ける月森の姿を何度目にしても慣れることはないこの気持ち。
 ヴァイオリンケースを背負って、必要最低限の荷物を持って。
 毎日こんな思いをするのかと自答して、そんな気持ちにならないようにしなくちゃいけないと思い直す。その繰り返し。
 香穂子がどんな思いで「いってらっしゃい」と言うのか、月森は最近まで知らなかった。
 だから時々振り返っては小さく手を上げる。

(大丈夫だから)

(必ず、君の元へ帰るから)

 かならず。
 少し安堵の表情が見えると、ふ、と笑ってまた背を向ける。
 心配性だなと笑えば「誰のせいよ」と頬を膨らませて、後で宥めるのに苦労したこともある。

 その心配性も、自分を想ってくれているからこそだと知っているから、多少のお小言(と言うと香穂子に怒られるから言わない)もきちんと聞く。・・・守りきれた試しはあまりないが。
 時々、またあの時のように置いていかれるんじゃないかと不安なのだと人づてに聞かされてから、月森は香穂子の言うことをできる限り聞き入れるようにしてきた。またあの気持ちを思い出さなくてもいいように。

「ありがとう、香穂子」

 心配してくれて。
 そうやって送り出してくれるから、自分は頑張れる。
 香穂子の待つ家へと帰ることが、何よりも待ち遠しくなる。
 門扉に手をかけて振り返りながら、玄関先にいる香穂子に月森が少し大きな声で言った。





「それじゃあ、香穂子。いってくる」

 

 

 

 

2010.10.7UP