叶わない恋に意味はあるのかなあ、 ver.K

 




 

「何よ突然?」

 いつものように「取材」と称して香穂子の元を訪れた天羽が、開口一番に彼女が放った言葉に目を丸くした。

「だからね。叶わない恋に意味はあるのかなあ、って」

「・・・ちょっとこっち」

 香穂子の手を握り、報道部の部室まで引っ張る。原稿を書いていた後輩たちを追い払い、ガタガタと椅子を持ち出して座らせた。

「聞こうじゃないの」

「・・・恋って、叶ってこそだよね?」

「叶う恋の裏側で、叶うことのなかった想いもあると私は思うけど。・・・っていうか、突然どうしたの?」

 香穂子が窓越しに空を見上げた。どこか遠くを見るその瞳に映っているのは、誰なのだろう。

「叶えたいと思っても、叶わないことだってあるでしょ。自分がその時本気で想った恋を、意味がないっていうのは自分もかわいそうだよ」

「・・・そもそも、恋、って何だろうね」

「あんたヤケに哲学的ね、今日」

 香穂子の視線はまだ空を見上げたままだ。

「誰のことかわからないけど、あんたが今全力で想ってるんなら、叶わなくてもその気持ちを忘れる必要はないんじゃないの?」

「・・・うん・・・」

「そんなに吹っ切れないなら、ヴァイオリンでも弾いてくれば?」

 あ、と香穂子が天羽を見た。

「八つ当たりとは違うから、ヴァイオリンだって許してくれるでしょ。あんたのその思いのたけをさ、ヴァイオリンにぶつけてみたら?案外いい感じになるかもよ?」

 少し冗談交じりで言った言葉を、香穂子は「うんそうする!ありがとね天羽さん!」と部室を飛び出した。

「あらら・・・」

 勢いある足音が聞こえなくなってから、天羽が一つため息をついた。



「ま。成就した暁には、インタビューさせてもらいますからね」

 

 

 

 

 

 

2010.12.8UP