叶わない恋に意味はあるのかなあ、 ver.LR

 




 

 練習室が偶然なのか嫌味なのか、隣だと知ったのはつい先ほど。時間の為に退室したタイミングが一緒だったようで、同時に姿を現した。

「・・・君か」

「俺で悪かったな。そっちも上がり?」

「ああ」

 月森が背を向ける。けれども行き先が同じ以上、土浦が後ろをくっついてく形になる。
 それが訳もなく悔しいから、隣に並んだ。
 けれども、何においても正反対の二人に話題があるはずもなく。

「追い越しゃよかったな・・・」

 土浦の独り言に、月森が僅かに眉を上げた。




 
「じゃあな」

「ああ」

 結局無言のままで練習室棟を出た。リリの銅像前で、荷物を取りに戻る土浦と、そのまま帰るらしい月森が別れる・・・はずだった。

「土浦」

「なんだよ」

 何か用かと問えば「・・・その」とはっきりしない。

「下校時刻近いから俺教室に戻りたいんだが。早く済ませてくれないか?」

「話がある」

 俺に?と思わず自分を指差して、土浦が目を丸くした。ああ、と月森が頷いて、自分の立っている足元を指差した。

「ここで待っている」

「・・・わかった」

 ちょっと待ってろと土浦が走り出した。





「で?」

 息を切らせることなく戻ってきた土浦と並んで歩き出す。珍しい取り合わせに周囲の視線が集まっていた。いちいち構っているとキリがないので、二人ともそういった輩は視界に入れない。
 正門を出て間もなく、土浦が切り出した。

「話って何だよ」

「君は、好きな人はいるのか?」

「はあ?!」

 突拍子もない質問だな、そりゃ。
 土浦が軽く髪をかきあげた。

「新手の嫌がらせか?」

「真面目に聞いている」

「何をどうしたらそんな質問になるんだよ・・・」

 げんなりと呟いてみたりもするが、月森は至って真剣なようだ。

「叶わない恋というものに、意味はあると思うか?」

「・・・叶わない恋があるからこそ、叶う恋だと思うが。っていうか何でそんなことを俺に聞くんだ?」

「君にしか聞けないんだ・・・」

 少し俯くと、長い前髪がサラリとこぼれた。何か真剣に思い悩んでいる様子だと気付くと、こいつも人間だったんだなとおかしくなってきた。

「なぜ笑う?」

「いや、まあ・・・気にするな」

 恋愛感情なんて無縁だと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
 そして、想う相手は、どうやら自分ではない誰かを想っているらしい。

「叶わない、っていうのは、『かもしれない』じゃないのか?」

「恐らく、叶わないだろうという予測の上で『叶わない』と言った」

「相手が誰だか知らないが」

 本当は知っている。自分と同じ少女を好きだということも。けれども月森はそれを知らない。それどころか彼女は土浦を好きだと思い込んでいる、らしい。

「叶わない、とわかりきった恋は、意味がないと思うぜ。『かもしれない』んだったら、諦めなくても前に進めると思うが」

「・・・怖いんだ・・・」

 ぽつりと呟いた。その言葉を月森の口から聞くとは思ってもいなかった。

「前に進むことが、今は怖い。だが、今のままでいいとも思えない」

「じゃあ前に進むことだな」

 香穂子が誰を想っているのか、土浦は気付いている。
 いつも遠くを見るその先に、この目の前のヴァイオリニストの姿があるのだから。
 どうして人の恋路を応援しなきゃいけないのだ。自分だって彼女のことが好きなのに。

「その台詞、俺んだぜ」

「は?」

 何でもねえ、とひらりと手を振った。



 叶う恋の一方で、叶わない恋もある。
 月森と別れて、自分は後者だったなと今更現実を直視させられて、思わず「あーあ」とひとりごちた。
 自分を想ってくれているなら、それは嬉しいし、そうなってほしい。
 でも気付いた時には、既に香穂子は月森を見ていたのだ。そうなったら、彼女の恋がうまくいくように後押ししてやろうと思うようになっていた。
 彼女の恋が叶うことが、彼女にとっての幸せならば。
 それでいいと、・・・思っていたかった。












ヒトリゴト。(ブログより

香穂子の話を書き始めて、こちらのパターンも浮かんだので、バージョン違いということで二つUPしました。
私の中では基本的に月日しかないので、土浦や加地にはホントにかわいそうなことしてます・・・ゴメンよ二人とも〜

2010.12.8UP