過去なんて要らない、君がいる未来が欲しい

 




 

 拍手喝さいが沸き起こる。
 それを演奏したときと変わらぬ無表情のまま、けれど先ほどよりかは少し丁寧に一礼し、月森が袖へと下がってきた。
 羨望の眼差しや、嫉妬の眼差し。そういったものには慣れた。・・・慣らされた、と言うべきか。

「今回も優勝は君のものになりそうだね」

 コンクールに出る面子というのはあまり代わり映えしない。上位に入る者ならば、特に。
 にやにやと意地の悪い笑みを浮かべながら近寄ってくるこの青年もまた、そんな一人だった。

「でも僕も今回は負けない」

「・・・健闘を祈る」

 心にもないことを、と鼻で笑う声を背後で聞きながら、ステージを後にした。





 あの青年は知らない。
 自分が今どんな思いでステージに立っているのかを。
 自分の全てを預けたいと思えた少女を自分から切り捨てた過去も、これからも。
 コンクールをがむしゃらにこなしてトロフィーだけが増え続けても、彼女は手に入らない。
 もしかしたら、もう、二度と。





 過去、コンクールに出場して得てきた地位よりも。
 今、君という存在が欲しい。
 ならばなぜ自分はここにいるのだろう。
 なぜ、彼女を選び取らなかったのだろう。

「・・・馬鹿なことを」

 控え室のドアを後ろ手に閉めながら、大きく息を吐き出した。
 そう。
 今となっては何もかも遅い。
 でもあの時の自分の選択は間違っていなかったと思う。・・・そう、思いたい。
 でなければ自分が今ここにいる意味がない。
 だから。

「君を迎えに行くその時まで」

 ヴァイオリンも、香穂子も、今なら両方選び取る。
 でも、もう少し。
 あと、もう少し自信がついたら。

(君の未来をもらいに行く)









ヒトリゴト。(ブログより

過去は過去として、月森には抱えていてほしいというのは我侭でしょうか。
傷ついてきた過去も、恐れ震えていた過去もひっくるめて、香穂子に大事にしてもらいなさいよっていうことで!

留学中で「きみにあいにゆくよ」の数ヶ月前設定です。
 

2011.4.26UP