理性vs.下心

 




 

 最近は週末になると月森の家に行ったりすることが多くなった。
 付き合い始めて間もなく、月森の母が買ってくれた、香穂子用のガラスのローテーブルと座椅子。今では特等席になっている。

「何か飲むか?」

 午前から公園でヴァイオリンを弾いて、お昼ご飯を挟んでまた弾いて。立ちっぱなしで疲れる前に切り上げて、公園から近い月森の家へとやってきた。

「うん。お任せします」

 いつもなら「私やるよ」と言うのだが、それがないということはそれなりに疲れているということだ。立ったままで弾くことに慣れている月森は「いつものこと」だが、香穂子にとっては慣れないからそれだけ疲れも蓄積されやすい。思ったよりも疲労が溜まっているようだった。
 テーブルに突っ伏した香穂子にわかったと頷いて自室のドアを閉めた。
 疲れているのならミルクを多めにしたカフェオレがいいだろう。





「・・・香穂子?」

 一応ノックをしてドアを開ける。相変わらずテーブルに突っ伏したままの香穂子。

「寝ているのか?」

 返事がない。
 自分の机にトレイを置く。カチャンと食器が触れ合う音にも反応しなかった。
 かなり深く眠っているようだ。

「香穂子」

 肩を小さく揺する。うーんと声がしたから起きるだろうと思いきや。

「・・・寝るー・・・」

 言うなり月森に抱きついた。
 そのまますうすうと寝息を立て始めてしまう。

「か、香穂子」

 月森が狼狽して視線を泳がせた。
 
(腕に・・・)

 月森の腕に、当たるのだ。香穂子の胸の柔らかい感触。
 それに、香穂子の・・・女性の柔らかい香り。
 どうにかして引き剥がそうとしても両手を動かせない。

「・・・困ったな・・・」

 これでは身動きが取れない。それに自分が身じろぎすればするほど、腕に当たる感触を意識してしまう。
 
(いっそのこと)

 下はカーペットだ。少しくらい乱暴に横たわらせても痛みはないはずだ。

「いやそうじゃないだろう」

 そんなことをしたら自分の理性が持たない。
 でも。

(眠っているのなら、今俺が何をしても気がつかない・・・いや、だからそうじゃなく)

 月森とて、一人の人間だ。彼女と出会う前はそんな感情すらいらないと思ったことだってある。
 けれど香穂子に恋をして、一度彼女の全てを手に入れてしまうと、貪欲になる。
 ふとした瞬間に、触れてしまいたくなる。
 触れて終わりじゃない感情をさらけだすことに、今でも少し戸惑いもするけれど。

「香穂子」

 返事は寝息。

「君に触れても、いいだろうか」

 答えはないとわかっていても、問うてしまうのは「逃げ」なのだろう。
 一度は断った。例え彼女が寝ていても、自分は前もって「触っていいか」と聞いた。

「・・・やっぱり、やめておこう。・・・いや、でも・・・」

 頭の中を目まぐるしく回る理性と下心。
 香穂子が目を覚ますまでの十数分。
 月森は顔を赤くしたり青くしたりしながら、葛藤していたのだった。

















ヒトリゴト。(ブログより

コメディにしよう!と最初に思い立ちまして。
天使の月森と悪魔の月森が、本人の上で殴り合いの喧嘩をしてると面白いと思う(笑
でも書き手の力不足で完全コメディにならなかったっていう(泣
私自身は書いてて楽しかったですー

2010.12.7UP