| 逸らした視線に滲む後悔を知っているから |
「結局こうなるんだな」
「一時はどうなるかと思ったけど」
「まあ落ち着く所に落ち着いて良かったね」
口々に吐き出される言葉の数々は、結果的に結婚の祝福のそれなのだが、どうにも素直に受け取れないのは何故だろう。
「・・・今日は、ありがとうございます」
「おめでとう、月森くん。今までのことは僕はよく知らないのだけれど、逢えなかった時間の分も、日野さんを幸せにしてあげてね」
「柚木、もう『日野さん』じゃないんだよ?」
ねえ?と火原に問われるが、隣にいた香穂子が「皆さんには今まで通りに呼んでほしいです」とにっこり笑う。
「いや、香穂子。こういうことはきちんとしないと・・・」
「じゃあ『香穂子さん』て呼んでいいのかな?」
違和感に月森が少し顔をしかめる。「・・・やっぱり、しばらくは『日野さん』のほうがいいかな」と苦笑した。
「私も、いきなり呼び方変えられても慣れないと思いますから、今まで通りで」
「うん、俺も『香穂ちゃん』ってまだ呼びたい!」
あっ、俺はいいのか!と大きな口を開けて笑う火原は、大学を卒業した後に教師になった。星奏に戻ってくるのかと思いきや、仙台の高校で音楽を教えているのだという。
柚木はアメリカの大学に行き、結局家の手伝いをしている。けれど柚木なりに「祖母の言いなり」だけで収まってはいないようだ。今度家のことに縛られずに新しく自分で事業を立ち上げるのだと後になって知った。
「でさ、再会したきっかけは何だったの?」
「・・・・・・」
途端に二人が黙り込んだ。
「え?あれ?俺、何か言っちゃいけないこと言った?」
「火原、それはいつかのお楽しみにしておこうか」
黙っていた土浦と加地が少し苦笑いしながら「先輩方、今日は二次会も出られるんですよね?」と話題を変えながら、席へと案内していく。
二人の機転に感謝しながら、月森が「すまなかった、香穂子」と小さく詫びた。
「うん?」
「俺の心が弱くて、君をずっと傷つけ続けていた。それだけじゃない、周りの人たちにも」
「もういいんだよ、蓮」
ぎこちなく逸らされた視線。
晴れの日にそんな後悔を滲ませた顔でいてほしくない。
「今日はいい天気だよ、蓮」
「・・・ああ」
「いいお式になるね」
「そうだな」
式場の係員が二人を呼びに来た。
ドレスの裾さばきに悪戦苦闘しながら、伸ばされた月森の手を取る。
「いこっか」
ああ、と月森が微笑んだ。
2010.11.14UP