デュオ(二重奏)

 




 

 いいじゃない、やろうよ、という一言で、やることになってしまったデュエット。
 しかも、男相手だ。
 お互いに組みたくないと思っているのだが、肝心の香穂子がニコニコ笑って「どうぞ?」と待っている。

「私はいつでもいいよ!」

「そりゃ聴くだけならいつでもいいだろうよ・・・」

 土浦が疲れたように呟いた。

「何だって月森なんだよ」

「・・・同じ台詞を君に返そう」

 むっとした表情を隠しもしないで月森が呟く。

「だってさ」

 香穂子がにこやかに言い切った。

「二人とも、結構合うと思うんだよね。傍目から見れば正反対なようだけど」

「何を根拠に合うとか思うんだ?」

「えー・・・」

 言わなきゃダメ?と上目遣いで土浦を見る。たじろいだ土浦が助けを求めるように月森を見た。
 しかし月森も何を根拠に「合う」と言うのか聞いてみたい気もして、土浦には悪者になってもらうことにした。

「俺も聞いてみたいな」

「月森っ」

「月森くんまでそんなこと言うのー?根拠はねえ・・・」

 しばらく間を溜めて。
 出てきた言葉に二人ともがっくりと肩を落とした。



「ない!」



 あははと笑う香穂子に、二人とも額に手を当てて盛大なため息をついた。

「ほら、こういうとこが合うんだよ」

 お互いに顔を見合わせて、その手を下ろす。そのタイミングも同時で、更に香穂子を笑わせる要因になってしまう。

「反発してるからこそ、お互いの事がよくわかる、ってあるじゃない?」

 香穂子の言いたいことがわからないでもない。
 確かに、お互いに何を考えているのかよくわかる場面は何度もあった。
 けれど、性格が致命的に合わないせいで、それを認めたくないだけなのだ。

「だから、一度二人で合わせてみたら、意外と意気投合するんじゃないかなと」

「それで、デュオなのか」

 うん、と香穂子が頷いた。

「選曲はお任せしますから、好きな曲を好きな時にどうぞ!」

 練習室の隅に置いてあるパイプイスをガタガタと持ち出し、ちょこんと座る。
 顔を見合わせて、月森と土浦が嘆息した。

「しょうがねえな。・・・何やる?」

「ひばり・・・はどうだろうか」

「来たな高速なのが。いいぜ、やってやるぜ」

 お互いに少し指慣らしをして。
 特に練習したわけでもないのに、すんなりと弾き始めた。





「すっごいね二人とも!練習なしで合わせちゃうなんて!」

 多少合わない所はあったのだが、香穂子は敢えて黙っておく。ぱちぱちと二人に拍手をすると、月森と土浦の表情が緩んだ。

「やりやすかった・・・な」

「ああ・・・そうだな」

 意外と合わせやすい。
 珍しく二人の意見が合致したことで、香穂子が得意そうに両手を腰に当てた。

「ね?だから言ったでしょ?」

 ふふんと香穂子の得意げな顔を見て、二人とも苦虫を噛み潰したような表情で視線を逸らした。

「でも、これで最後だ」

「俺も、もうやらない」

「ええっ?!何で?!」

 月森も土浦も答えなかった。
 意外と合うかも、なんてそう簡単に認めたくなかったから。






 後に音楽家として世に出る二人の貴重なデュエットは、たった数分にして消えてしまったのだった。











 2010.11.26UP