不協和音

 




 また始まった、とでも言いたげな周囲の視線がちりちりと刺さる。
 そんなことはお構いナシに当事者たちは火花でも散りそうなほどの形相で睨み合い、不穏な空気を漂わせている。

「二人とも、そこまでにしようよー・・・」

「お前は黙ってろ」

「君は黙っていてくれ」

 同時に発せられた言葉にまた小さく舌打ちをしながら、また睨む。
 ほとほと困り果てた所に、救いの女神が現れた。

「やっほー!三人さんお揃いで!」

 険悪な雰囲気などものともせずに、天羽が駆け寄ってきた。

「土浦くんも月森くんも、まーたケンカ?懲りないねえ」

「元はといえば月森が・・・」

「元はといえば土浦が・・・」

 またシンクロした言葉に、天羽と香穂子が一瞬目を見開き、盛大に吹き出した。

「何だよ」

「何か?」

「・・・・・・・・・ぷっ」

 こらえようと一応の努力はしてみたものの、そんな無駄な努力など天羽も香穂子も早々に諦めた。
 腹を抱えて大笑いする女子生徒二人に、土浦も月森も毒気を抜かれてため息をついた。






「で?そのケンカの理由は?」

 ひとしきり笑い終えて、涙をぬぐいながら天羽が問うた。

「アンサンブルのね、練習をしてたんだけど。曲想のことで揉めて・・・」

「だから一気に盛り上げたほうが観客だって絶対トリハダ立つぜ」

「作曲者の意図をまるで無視しては、曲のイメージが台無しになる」

「教科書通りにしか弾かない音楽なんてつまらないだろ!」

「作曲者の指示するように弾いてこそ素晴らしい音楽になるんだろう」

 あーあ、と天羽が天を仰ぐ。

「こりゃあ、私には何ともできないわ。ねえ香穂、あんたはどう思ってるの?」

「え、私?」

 突然矛先を向けられた香穂子が驚いて一歩後ずさる。三人が「どうなんだ」という顔で見ているものだから、何となく気まずくて俯いた。

「そうだな、お前の意見も大事だよな」

「ああ」

 珍しく意見が一致した、などと悠長に天羽がニヤリと笑うと、二人に一瞥された。睨んでみせたって天羽にとっては怖くもなんともないが。

「私、は・・・」

 しばらく考えて、土浦の意見と月森の意見通りに頭の中でイメージしてみる。

「二人の意見、両方ともいいなと思う、んだけど・・・」

「だけど?」

 楽譜を引っ張り出してきて、三人の前で広げて見せた。

「月森くんの言うように、強弱だったり、イメージは大事だと思う。でも土浦くんが言うみたいに、えーと・・・」

「ここか?」

 いまいち譜読みが不得手な香穂子が指を躍らせて問題の箇所を探していると、月森が指をさした。
 ありがとう、と小さく笑う。

「ここで一気にくるよりは、少し前から『これから何か来るぞ』みたいに期待を持たせてもいいんじゃないかな」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 天羽にとってはもう既に専門外の話なのでただ聞いているだけだ。・・・面白そうにニヤニヤ笑いながら。

「ちょっと弾いてみるね。せっかくだから、天羽ちゃんも聴いてみて?」

「私が聴いたってクラシックはさっぱりだよ?」

「さっぱりだからこそ、第三者の意見が聞きたいの」

 ああ、なるほどな、と土浦が頷いた。

「じゃあ、月森くんの意見から」

 月森の言う「楽譜通り」を最初に弾いてみせ、次いで土浦の意見、最後に香穂子の意見、と三通りを弾いてみせた。

「どうかな?」

「天羽はどう思う?」

 土浦が聞いた。

 「うーん、全部いいんじゃないかなとは思うけど」

「・・・意見にならねえ」

「お・も・う・け・ど!パッと聞いた感じでは香穂子の案のほうが聞きやすかったな」

「そうだな、俺もそう思った」

「土浦くんは?」

 ヴァイオリンをケースに置いた香穂子が尋ねると「・・・俺もだ」と腕を組んだ。

「じゃあ決まりだねっ!」

 天羽がパンッ!と手を打った。





「天羽ちゃん、昨日はありがとね」

 翌日。校門で偶然出会った天羽に礼を言うと「私は何もしてないよー」と肩を叩かれた。

「まとめたのはあんたでしょ。天然でやるんだからすごいよね」

 月森くんもそう思うでしょ?と隣にいる月森に尋ねると「そうだな」と素直に首を縦に振った。

「君は広い視界で物事を見ていると、よく思う。だからこそ、個性的なアンサンブルメンバーをまとめることができるんだろう」

「え、ちょっと、何?」

 二人に褒められて嬉しいのだが、照れくさいほうが先立ってしまう。

「褒めてんだから素直に受け取りなさいよ。っていうか、あんたは不協和音をちゃんと直すんだからすごいわよね」

「天羽さん、その不協和音とはどういう意味だろうか」

 憮然と月森が言い放つが、天羽は「まあまあ」と笑って先に行ってしまった。

「不協和音云々はともかくとして」

 小さく咳払いをした後で月森が香穂子に向き直った。

「君は、そのままでいい。そのままの君だから、皆もついてくるんだろう」

「・・・褒められてる、んだよね?」

 ああ、と言われても、なんだか自分の知らないうちに話が進んでいて、よくわからない。

「君は君だ」

「・・・うん」

 よくわからないが褒められたことは素直に嬉しいから、喜べばいい。

「じゃあ昼休みも練習ね!」

 もちろんだ、と月森が頷いた。














ヒトリゴト。(ブログより

月森と土浦って、正反対のようでいて、結構気が合うと思うんですよね。新婚なふたり〜の「はじめての手料理」で月森と土浦がちょっと仲のいい話を書きまし たが(ホントにちょびっと)、何かあったときに最終的にはお互い頼れる存在、というか。音楽的にも、人間的にもね。基本的に、2年生ズはとても仲がいいと 思います。
同時に物を言う、っていうのは私の個人的趣味(笑)。色んな所で色んな人に(主に土浦)同時に言わせてます。

2010.11.10UP