キズモノにされてしまった・・・




 

 それは唐突にやってきた。

 屋上の、更に梯子を上った小高いスペース。
 いつもならチェロを弾く後輩がそこで寝ていたりするのだが、今はいないようだった。
 風が少し強いが、ここから見える眺めが好きで、時々・・・本当に時々なのだが・・・ここに上ってぼーっとして時間を過ごしていた。
 ドアが少し軋んだ音を立てながら開かれた。

「あれ、荷物はあるのになあ」

 香穂子の声だ。いないの?と誰かが言った。この声は、天羽だ。顔を合わせれば取材だのインタビューだのと追い掛け回されるから正直会いたくない。これ幸いにと月森は身を潜めることにした。

「で?」

「え?」

 えじゃないわよ、と天羽がため息をついた。

「キズモノにされちゃったんでしょ?月森くんに」

(は?)

 一瞬何を言ったのかわからなかった。
 天羽は「傷物にされた」と言ったのだ。自分によって。

(傷物、とは・・・一般でいう、あの意味だろうか)

 彼女の・・・純潔。
 いやしかし。付き合っているとは言っても、まだそこまでではない。直前で思い留まったから。

「そんな言い方じゃなくたっていいじゃない。うーん、でもキズモノって・・・そうなのかなあ」

 香穂子が否定しなかった事実に、月森は愕然とした。
 自分が、彼女を・・・?
 記憶に無い事実(だろうと思われる)に、冷や汗がどっと噴き出した。

「どうやって責任取ってもらうつもりなの?」

「そんなつもりないからー」

「ダメだよ、こういうのはちゃんとしとかないと!」

 そうだ。
 記憶にない、身に覚えがないとはいえ、責任はきちんと取るべきだろう。
 自分の将来を変えてでも。
 それほど香穂子は月森とっては大切な存在だから。
 むくっと身を起こす。けれど二人はまだ月森の姿に気付かない。

「キズモノって言ってもさ、ただの・・・・・・だし」

 風がざあっと吹いて、肝心な所が聞き取れなかった。
 香穂子は、何と言ったのだろうか。

「それでもさー、ちゃんと始末つけてもらいなよ」

「ホントにいいんだけどなあ」

「それにしても月森くん、戻ってこないね」

 インタビューしようと思ってたのになあ、とのんびりした天羽の声が、月森の思考を少しずつ元に戻してくれる。
 ごめん私行くわ、と天羽が去っていった。
 キズモノにされた責任、ちゃんと取らせるのよ!という言葉を残して。

「天羽ちゃーん、そんな紛らわしい言い方しないでよ、月森くんの前で!」

 キズモノって言ったって、ただの・・・なんだから。
 今度は香穂子の声が小さすぎて聞き取れない。

(俺は一体・・・彼女に何をしたんだ?)

 月森の葛藤は続く。













ヒトリゴト。

このお話を書いた時は、2時間近く考えても結局「何をキズモノにされたのか」が思いつきませんでした。

で。これを今読み返してて、気付いた、っていうか思いついた。

でもまあこれはこれでご想像にお任せしますって逃げられるかなということで!どろん。

 

 

2010.3.7UP