抱いていい?




 

 これを特技というのだろうか。





「すごいね月森くん!これで5個目だよ!」

 香穂子が興奮して俺の腕にしがみついた。周囲にいた野次馬もどよめく。

「すげーな。事も無げに取ってくぜ」

「しかも迷ってないし」

「・・・・・・」

 香穂子の手を取って逃げ出したいところだが、いかんせんその香穂子が率先してその場から離れないのだから困る。

「意外な特技だね、月森くん」

 クレーンゲームというものに初めて挑戦したのは、土浦や香穂子たちと遊園地に行った時だ。
 その時の視線は、奇異なものを見るかのようだった。
 それから機会があればまたやりたいという香穂子が言うから、日曜日の今日、こうしてゲームセンターに来たのだが・・・。

「もういいだろう」

「えーだってまだできるんだよ。もったいないよ!」

 このやり取りは既に2回目だ。
 これでは俺が失敗するまでやらされることになる。
 しかしわざと失敗するのも、なんとなく悔しくてできない。
 結局。





「8個!すごいなあ、月森くん!」

「・・・そうだろうか」

 一人では持ちきれなくて、香穂子と半分ずつ持つことにした。

「このウサギ、かわいいね」

「君が気に入ったのなら良かった」

 そのウサギのぬいぐるみは、香穂子に是非取って欲しいとせがまれたものだ。クレーンゲームの間中、ずっと抱きしめていた。
 彼女に「次はあれ、次はこれ」と言われるままに取ったものだから、全て香穂子の気に入ったものばかりだ。

「・・・抱きしめてもいいかな」

「・・・え?」

 少し考え事に没頭してしまったせいで、彼女が何か話していたのに全く聞いていなかった。
 かろうじて聞き取れた最後の台詞が。

「だからさ、抱きしめていい?、って」

 ・・・何を、だろうか。
 彼女からそんな言葉が出てきたことに動揺してしまい、逡巡している間にも香穂子の話は進んでいく。

「全身で『抱きしめて』ってオーラを出してるんだもん。すっごくかわいいから、ぎゅーってしたくなっちゃった」

「・・・・・・何を、だろうか」

「だーかーらー、その月森くんが持ってるクマのぬいぐるみ」

「・・・・・・」

 俺は何を考えていたんだろう。
 一瞬でも自分の都合のいいように取ろうとしていた思考が情けない。
 思わず大きなため息をついてしまった。

「月森くん?」

「・・・いや」

 どうぞと渡すと、満面の笑みで頬を摺り寄せた。





「送ってくれて、ありがとう」

「いや。それじゃ」

「気をつけてね!」

 ありがとうと片手を上げて歩き始めると、すぐに「月森くん!」と呼び止められた。

「何か?」

 振り返ると、香穂子がぬいぐるみの入った袋を置いて駆け寄ってきた。

「あ、あの・・・あのね」

「?」

 顔が少し赤いのは、走ってきたせい・・・ではないだろう。赤くなるほどの距離ではない。

「どうした?」

 呼び止めたはいいが、何かを言い出せずに迷っているようだ。
 口の中で何かを呟いているが聞き取れない。

「香穂子?」

 かかんで耳を近づけようとしたその時。

「・・・!」

「気をつけて帰ってね!また明日!」

 一瞬、何をされたのかわからなかった。
 かがんだまま身動きできない俺をよそに、香穂子はそのまま自宅へと戻って行ってしまった。
 やがてパタンとドアの閉じる音。

「・・・これ、は」

 彼女からキスをされたのは初めてだった。
 突然の出来事で、思考がうまく定まらない。

「・・・・・・帰ろう」

 取り敢えず姿勢を立て直し、自宅へ向かって歩き出す。
 その間に、今の出来事を思い返してみる。

「君からは、初めてだな」

 今日のお礼のつもりなのだろうか。
 それならば、衆人環視の中で取った甲斐もあるというものだ。
 今別れたばかりだというのに、もう君に会いたくなってしまった。
 明日になれば会えるというのに。
 そうしたら、さっきのお礼返しをしよう。
 どうやって彼女を驚かせようか考え始める自分に苦笑してしまう。



「また、明日」



 口元からこぼれる笑みを押さえきれずに小さく呟く。



 ・・・また、明日。










フトリゴト(ブログより

ちょっと中途半端な感が(いつものこと

漫画の遊園地でクレーンゲームやってたのを思い出しまして。

どうでもいいけど、あのぬいぐるみ、月森は持って帰ったんでしょうか。・・・ホントにどうでもいいよ(笑

2010.7.17UP