con moto 〜僕を探して〜

 




 元気がいいのが唯一の取り柄なのだと、いつだったか笑っていたことがあった。
 コンクールが始まった途端、月森の静かな日常は脆くも崩れ去った。
 音楽科棟にいるとまだ静かだが、エントランスや屋上にいようものなら、実は監視されているのではないかと疑いたくなるほどの確率とタイミングで「月森くん!」と声をかけられる。





「あ、月森くんだ!珍しいね、こんなところに。お昼ごはん?」

 カフェテリアに姿を現した月森の背中をぽんと叩いて現れたのは、日野香穂子。

「一緒していい?」

「迷惑だ、と言っても君は引き下がらないんだろう?」

「ご名答〜」

 食べよっか、と空いている席へ歩いていく。





「月森くん、今度のセレクションの曲決まった?」

「ああ」

「早いね!私なんかまだ決まらなくて・・・」

 金澤に早くと急かされて尚更焦っていると、全くそう思わせない口ぶりでのんびり呟いた。

「私なんてクラシック超初心者なのにさ、このテーマにはこういう曲、なんてぽんぽん浮かぶほど知らないんだもの!もうちょっと金澤先生も協力してくれたっていいのにね」

 言われてみれば、そういった知識がないままにコンクールだヴァイオリンだと始まってしまった彼女には、大きなハンデとなる。片っ端からCDを聞き、イン スピレーションで「この曲」と決めているようだったが、そうするとあまりにも時間がない。CDを聞くだけでもかなりの時間を要するだろう。

「こないだ月森くんから借りたCDの、原曲を聴いてみたいんだけど」

「どれだ?」

 そういうわけで月森が貸したCDは結構な量になっている。交響曲などはコンクールには向かないだろうとアドバイスした結果、範囲は多少絞られたものの、それでも膨大な量だ。

「えーっとね・・・」

 タイトルを度忘れしたのか「あのCDのあの曲・・・」などと言われてもわかるわけもない。

「教室にCDあるんだけど・・・」

「では後で教えてくれ」

「うん!」

 既に食べ終えた月森が「それじゃ」と席を立つと「うん、また後で!」と小さく手を振った。





 後で、とは言ったものの、屋上か練習室か森の広場か、全く違う場所か。どこで、と約束しなかったが、まあいいだろう。きっと彼女のことだから、自分がどこにいても探し出すのだろうと確信めいた予感があった。ヴァイオリンを弾いてさえいれば。
 そうして、きっとまた先ほどの調子で「月森くん!」と声をかけるのだろうなと思うと、知らず唇が緩んでしまうのだった。











ヒトリゴト。(ブログより

コン モート。元気よく、という意味だそうです。
元気のいい香穂子さん、を目指したつもりです、が・・・標準装備ですね・・・
3セレ前くらいのつもりで書きました。

 

 

 

2011.1.19UP