dolce 〜あまいのはどっち?〜

 




 新しい楽譜を探すのに月森にも手伝ってもらい、そのお礼にとやってきたカフェ。

「あれ、日野さん。と、月森も」

 加地がテラスで一人アイスティーを飲んでいた。テーブルの上には最近のヒットチャートを賑わせているアーティストのCD、数学のノート、地図。

「一緒に座ってもいいかな?」

「僕は構わないけど。月森は?」

「俺も構わない」

 すかさず加地が立ち上がり、香穂子が座るであろう椅子を引いて「どうぞ」と手で指し示した。

「あ、ありがとう」

 加地のこういった気遣いは、月森にはなかなかできない。目の前で自分の恋人が他の男にエスコートされているなんて、あまり見ていて気持ちのいいものではない。

 むっとした表情で加地を睨むように席に着く。それに気づいた加地が「君にも同じことをしてあげれば良かったかな?」などとうそぶいた。

「必要ない」

「ごめんね、つい癖で。今度からは気をつけるよ」

 何とも返事のしようがなくて黙り込む。香穂子が「あ」と声を上げた。

「これこないだ出たばっかりのCDだよね。いいよねー」

「ドラマの主題歌になってて、僕はそっちを先に聞いたんだけど、いい曲だなと思って。思わず買っちゃったよ」

「数学のノートは、課題?」

「それは、出た時点で終わらせた。そろそろ小テストがありそうだから、その対策をね」

「・・・その地図は何だ?」

 ああこれ?と地図を引っ張り出す。所々に付箋が貼られ、赤い丸印が集中してつけられている。

「ほら、今度皆で遊びに行くって話してたでしょう?それで、周りには他にも見所があるんじゃないかと思って。調べておいたほうが、実際に行った時にもっと楽しめるでしょう?この辺は小さい頃行った記憶があるんだけど、今じゃだいぶ様変わりしてるみたいだし」

「でもあの話って、確か柚木先輩が都合悪いって・・・」

「先輩方は受験があるからね、忙しいと思うよ。もし行ける人がいるなら、その人たちだけでどうかなと思ってるんだけど」

 柚木に対しては、何故か少し辛らつなように思うのは、月森だけだろうか。

 香穂子は、そっか、と何度も頷いている。

「こんな脈絡のないものばっかり広げてるから、加地くんがもっとわかんなくなってきたよ」 

 そんなことないよ?とちょこんと首を傾げる。そういった動作が似合うのだから、加地という男はよくわからない。

 音楽に対しての耳は、恐らく音楽科の生徒たちのほうが劣りそうなほど正確。

 柔らかな物腰で、誰からも受けがいい。

 けれども、芯はしっかり通っていることを言ってみせたりもする。

 加地と香穂子の二人で話が盛り上がる中、カフェのスタッフが「お待たせ致しました」とトレイを片手にやってきた。

 本日のおすすめケーキセットなるものを香穂子の前にセッティングし、月森のオーダーしたアイスティーを置いていくと、加地が目を輝かせる。

「うわ、おいしそうだね」

「今日は紫芋のモンブランだって。おいしそうだよね」

「僕も頼んで来ようかな」

 一瞬だけ月森を見、ひょいと加地が立ち上がった。

 

「君は誰とでも仲良くできるんだな」

「え、ほお?」

 もぐもぐとケーキを頬張る香穂子が、目を丸くした。

「そんなことないと思うけどなあ。普通だよ」

「君の特性なんだろうな」

「・・・そうかなあ・・・」

 フォークを唇に当てて上を見上げる。フォークについていたケーキの残骸が、唇の端についていることに気づかない。

(何に対抗したいんだろうな、俺は)

 咄嗟に思いついた行動に、有り得ないと苦笑を漏らす。先ほどから加地と香穂子が楽しそうにしゃべっているのを見ていたら、言葉にならないモヤモヤとした気持ちが心の中でわだかまっていた。

 香穂子の正面に座っていた加地が「ケーキを頼んでくる」と席を立ったのは、おそらく自分の為だろうと思う。

 もやもやした気持ちを晴らす為の時間をくれたに違いない。

 だから。

(こんなこと、絶対にしないだろうと思うが)

 今、今だけ。

 彼女が他の男と楽しそうに話していることに嫉妬してしまった自分ができる、せめてもの意思表示。

「香穂子」

「ん?」

 新しい一口をフォークで切り分けようとしていた香穂子が月森を見た。

「なあに、月も・・・」

 目の前が翳る。

 大きな瞳を更に見開く。

 あまりの衝撃に香穂子が固まっている間に、ぺろりと舌で唇を舐めながら月森が座り直した。

「・・・甘いな」

 しかめ面でアイスティーを一口含む。溶けた氷がカランと音を立てた。

「・・・あの」

「どうした?」

「・・・あの・・・」

 口をぱくぱくして、ケーキと月森を交互に見やる。赤くなってきた頬を自覚しながら、月森が微笑んだ。

「あまり甘いものは食べないが、君のだから、おいしかった」

「〜〜〜〜〜〜っ」

 声もなくジタバタ手足を動かす香穂子へ、とどめに「ごちそうさま」と囁いてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒトリゴト。

 そんでもって、加地くんはそれを店の片隅でドヤ顔しながら見てたりするんですよ(おい

 コルダはあまあま書けない人なんですが(だから最後まで残ってた)、ぽんっ!と音を立てて浮かんだネタだったので。一気に書いてしまいました。楽しかった!

 

2011.9.20UP