小道に入って手を繋ぐ




 君が好きだと告げて。
 同じ想いを返してもらって。
 それまで一緒に登下校していた道程は、いつもと違うような気がしていた。
 下らないかもしれないがと付け加えて言うと、香穂子が「私もそう思ってた」とはにかんだ。

「一緒の事を考えるんだね、私たち」

「以前の俺ならこんなこと考えもしなかっただろうな」

「そうかな?」

 そんなことないと思うよと意外そうに彼女が言った。そう言われたことが意外で、思わず香穂子を見つめ返す。

「そうだろうか」

「そうなんですー」





 訪れる沈黙。
 お互いにあまり喋るほうではないが、こんな穏やかな時間も心地いい。
 交際暦、一週間。
 彼女と付き合うようになって、一つ習慣化しつつあるもの。

「はい」

 小道に入ると、香穂子が手を差し出した。
 その手を握り返すことに、あまり躊躇わなくなった。
 最初は俺から手を繋いだけれど、人の視線が気になるから、同じ星奏の生徒がいなくなるこの小道に入ってから、俺たちはそっと手を握る。
 始めこそ香穂子は驚いていたが、案外女性のほうが慣れると度胸が据わるのかもしれない。
 今となっては俺のほうが少しうろたえる。
 彼女の体温が流れ込むこの瞬間。
 きっと慣れることはないだろうなと苦笑する。

「どうしたの?」

 ふ、と息を漏らしたのがわかったらしく、香穂子が見上げてきた。心なしか手を繋ぐ前よりも密着している気がする。
 そんなことにさえ、心が揺らぎそうになる。
 君に、もっと触れたいと思う自分に。

「いや、なんでもない。・・・君とこうして歩いている自分が不思議だなと思っていただけだ」

「あー、そうだよね。コンクールの始め頃の月森くんが今の月森くんを見たら、絶対怒ってたと思うなあ」

「・・・・・・」

「・・・・・・あははー」

 ごめんなさいと項垂れてしまった香穂子の手に、少しだけ力を込める。

「謝らなくていい。・・・きっと、あの頃の俺が今の俺を見たなら」

 不安そうに見上げる香穂子に微笑む。

「そんなに幸せなのかと悔しがったかもしれないな」



「・・・月森くんて」

「ん?」

「手を繋ぐのは恥ずかしがってこうやって人のいないところがいいって言うのに、そんな台詞はさらっと言っちゃうんだね」

「そうだろうか」

「そうなんですー」

 唇を尖らせる仕草が彼女にしては幼く見えた。

「香穂子」

 俺を見上げるより早く、顔を寄せた。
 一瞬だけ止まって、彼女の顔を覗き込む。
 驚いて目を丸くしていることに、内心してやったりと思いながら、唇を重ねた。





 小道で手を繋ぐ。
 それは誰も知らない、俺たちだけの、二人だけの秘密。

 

2010.2.21UP