| 行進曲 〜マーチ〜 |
何と開会式から見るという志水に、どうりで待ち合わせ時間が早かったわけだと納得しつつ、会場のベンチに並んで座る。
「クラスの友達が、開会式から見たほうがいいって…」
「普通の開会式なんでしょ?何かパフォーマンスでもあるの?」
「さあ…」
詳しいことは聞かされていないのだろう、志水が首を傾げた。
アナウンスが流れ、ファンファーレが鳴り響く。
前年度の金賞受賞チームがファンファーレを担当することになっているのが暗黙の了解となっていて、今年は志水のクラスメイトがいるという団体だった。
広い会場に響き渡るファンファーレ。
これから待っている時間が楽しいものになりそうな、そんな気がした。
発表順に入場していくチームの代表者たち。
十数人で出るところもあれば、チーム全員で出るところもあり、それぞれの性格が出ている。
入場する時に、マーチングらしく足並みを揃えていたり、手を振りながら自由に歩いていたり。
「次が僕のクラスメイトがいるチームです」
受付でもらったパンフレットを見ると「RAINBOWS」という名前だった。
団体名がコールされると、一際拍手が大きくなる。どうしたんだろうとパンフレットから顔を上げると。
「うわあ…」
二十人ほどだろうか、二列縦隊を作り、背中合わせになってウェーブをしながら歩いていく。その波の綺麗なこと。
「これも審査対象なんでしょうか…」
などと呑気に呟く志水に苦笑して、その入場パフォーマンスを見ていたのだった。
マーチングは見ているだけでもなかなかに楽しい。
自分がやれと言われたらできる自信はないが、列が綺麗に揃っていたり、盛り上がりを見せる場面などでは鳥肌が何度も立つ。
人数の少ない団体ですらそう思うのだから、これが大人数になって音も大きくなったらどうなるのだろう。
昼食時間はないらしく、小編成の団体全てが終わった所で席を立った。
外に出ると、本番に備えて練習に励む人、弁当を食べる人、本番を終えて清々しい表情で楽器を手にしている人、それぞれだった。
「皆楽しそうだね」
一様に言えるのは、マーチングをしている人たち皆の表情が楽しそうなことだ。
「音楽って、音を楽しむって書くけど、本当にそんな感じ。志水くんもそう思わない?…って、あれ?」
きょろきょろと周囲を見回しながら歩いていたから、隣に志水がいるものだとばかり思っていた。慌てて後ろを振り返ると、志水が誰かを話をしている。どうやら今日誘ってくれたクラスメイトらしかった。
「志水くん」
「あ、香穂先輩」
戻ってきた香穂子を見たクラスメイトが驚いたように目を見開いた。
「お前一人じゃなかったのか」
「志水くんからチケットもらって…」
,「確かに二枚渡したけど…まあいいや。来てくれてありがとうございます、日野先輩。俺らの順番一番最後だけど、楽しんでって下さい」
小さく頭を下げた後、志水に「じゃあまた後で」と言いかけて足を止めた。
「これから合奏やるけど、見に来るか?」
「うん」
音楽のことになると志水の反射神経は普段の10倍だな、などと半ば感心していると、同じことを思ったのかクラスメイトも苦笑しながら肩をすくめた。
「こっちだ」
合奏というだけあって、ドリルはないらしい。つまり立奏だ。
「すっごい人数だね…」
案内された場所へ行ってみると、100人はいるだろうと思われるメンバーがそれぞれに音出しをしていた。
「多分この辺はガードだから、俺らの前辺りがいいと思う」
この辺、と指を指された場所に二人で立っていると、クラスメイトも持ち場所に戻って行く。担当はティンパニらしいが、背後にもシンバルなどが置いてあった。
チューニングを始めたその真剣な顔は、音を楽しむ為の大事な準備だ。香穂子もコンクールの第一セレクション前は緊張して音合わせをやたらチェックしていた。…後でリリに直されたが。
最近なかった緊張感に、傍観者である香穂子までが緊張してきてしまって、隣にいた志水に「先輩が緊張しなくても…」とまで言われてしまった。
「あはは…」
「さて、じゃあ始めますかー」
のんびりとした声でやってきた一人の男性が、香穂子たちに気付いて軽く目礼してくれた。香穂子と志水も小さく頭を下げる。
二人の他にも、何人か見学しているようだった。
「立奏だけど、頭の中でドリル描いて線も合わせてね!ガードは動けるとこ動いてー、ピットは目の前の二人が審査員だと思えよー」
どっと笑いがおきる。香穂子と志水のことを言っているのだ。ピットのメンバーも笑ってはいるが、目が真剣だった。
「よーし、じゃあいきまーす」
すうっと、その場の空気が張りつめたものへと変わる。メジャーの手がゆっくりと上がった。
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