夢想曲(トロイメライ)




 真冬に限って食べたくなるアイス。
 夏に鍋が食べたくなったりするのと同じだよね、と嬉しそうに言いながら、香穂子が一口頬張った。

「…………」

 コーヒーを飲みながら呆れたように見つめる月森の視線はいつものこと。
 食後やおやつにと甘いものを食べていると、決まって信じられないものを見るかのような視線で見つめている。

「蓮も食べる?」

「結構だ」

「そう?ウエハースもあるのになあ」

 ぴく、と月森の動きが止まった。

「食べる?」

「……ウエハースだけ、頂く」

「おっけー」

 へへへ、と嬉しそうに笑いながら席を立つ。間もなくしてウエハースを乗せた皿をコトリと置いた。

「なんかさ、こういうシンプルなお菓子って、時々無性に食べたくなるよね」

 甘いもの全般を好んで食べることをしない月森には、その気持ちは理解できない。が。

「……まあ、わからなくも、ない」

 ウエハースだけは別。
 パリパリと食べていると、香穂子がじっと自分を見つめていることに気付いた。

「どうした?」

「なんかさ、意外な組み合わせかもって思って」

「意外?」

「蓮と、ウエハース。なんていうか、子どもっぽいギャップっていうのかな」

「…………」

「蓮が子どもだって言ってるんじゃないからね!…一応」

 じゃあ何なんだと言いたいが、黙っておく。
 香穂子も、パリパリと食べる仕草がかわいい、などと今ここで言おうものなら、もっと睨まれるのでやめておいた。

「今度からストックしておくね」

 答えないのが答え。
 子どもっぽいと言われたのを根に持っているから返事をしない。でも本当はストックしておいてほしいと思っている。

「私も成長したなあ」

 しみじみ一人で頷きながら、溶けかかったアイスをぱくりと放り込んだ。

「いつも子どもの頃のことを思い出す。それは常に自分と葛藤しているものでしかなくて、子どもらしい思い出はほとんどない。けれど」

 食べかけのウエハースをひらひらと振る。

「けれど、これだけは違った。柔らかな布に包まれているような優しさと、少しの寂しさ。これを食べている時だけ、本当の自分でいられる気がした」

「……蓮」

「こんな年齢になって、こんな子どものようなものを好むなんて、君も笑うだろうが…俺には、これが唯一子どもらしい思い出だったんだ」

「いいんじゃない?」

 香穂子もパクリとウエハースを食べた。月森の子どもの頃を、同じ気持ちを、味わえるかもしれないと思いながら。

「………ありがとう」

「何だか、トロイメライ弾きたくなってきた!やろう?」

 脈絡がないのはいつものことだと月森が苦笑すると、ぷうと頬を膨らませた。

「子どもっぽいとか思ってる?」

「いや、君はいつも君らしいと思っただけだ。伴奏、しようか?」

「ホントに?!やったあ!じゃあこれ食べたらね!」

 俄然食べるスピードが速くなる。
 本当はほんの少し子どもっぽいなと思ったのは、言わないでおこう。
















ヒトリゴト。
 久々のコルダでございます。お題を眺めてたら、トロイメライ→子どもの情景→ウエハース。ちーん。で、出来上がりました。短すぎる…
 ちなみに、結婚後設定でございます。
 拙宅の設定を気に入ったと仰って下さった方がいて、調子に乗って書いてしまった(笑)。結婚してから香穂子がウィーンに行くまでに約ひと月ほどの時間が空いてる設定になっております。まんま自分のことです(笑)。私はウィーンじゃないですけどね。正反対の方向ですよ。

2011.12.15UP