眼帯

 




 

 昼休みに月森が保健室に運ばれた。
 その知らせを持ってきたのは天羽だった。

「顔にケガしたみたい。授業は出てたみたいだから大したことないと思うけど・・・」

 詳細な情報がわかったら教えにくるよと言い残して、走って行ってしまった。
 今はもう既に放課後だ。これから月森と屋上で練習することになっているから、会えばわかるだろう。
 そう思っていたのに。

「すまない、今日は真っ直ぐ帰宅する」

 とだけメールがきた。
 心配になって一緒に帰ると返信したが、気付かないのだろう、返事が来ない。
 授業は出ていたようだから、天羽の言うとおり対したケガではないのかもしれない。けれどケガはケガだ。

「月森くんちに行ってみよう」

 思い立ったら即行動、が香穂子の得意技だ。練習室のキャンセルをして、学校を出た。





 急ぎ足で月森の家を目指す。どうして顔にケガなどしたのだろうか。そんな危険性のあることをしないし、本人だって充分に気をつけているというのに。
 まだ明るいからか、月森の家に明かりがついていない。インターフォンを鳴らそうか迷っていると、ガチャリとドアが開いた。

「・・・香穂子」

「月森・・・くん」

 いつも見慣れたその顔に。

「・・・眼帯?」

 眼帯がされていたのだった。





 中へと招かれて、リビングへ案内された。
 歩きながら月森が説明してくれた。・・・香穂子からのメールは案の定気付かなかったと申し訳なさそうに呟いた。

「昼休みに君のところへ行こうとしたら、廊下で遊んでいた生徒の手がぶつかって・・・」

「月森くん、コンタクトでしょ?目は?」

「大丈夫だ。ただ・・・」

 そうっと眼帯を外した。目の下に傷ができている。

「場所が場所だからと保健の先生が」

 大袈裟にしたんだとため息をつく。

「爪で引っかかれてしまって・・・」

「どこの誰よ月森くんにケガさせるなんて!」

「いや、俺も不注意だった」

 傷薬が目にしみると言ったら、大袈裟なことに眼帯をされてしまったのだと月森が言った。

「だから、たいしたことじゃない。午後の授業も出席はしたが、ヴァイオリンが弾けなかったので補講になった」

 帰りはタクシーで帰ってきたと言うから、急いで歩いて来ても追いつけなかったのは当たり前だった。
 言いながら薬はもう沁みないから大丈夫だと眼帯を捨ててしまったが、傷が痛々しい。


 おそるおそる手を伸ばすと、月森が目を閉じた。僅かに顔が歪む。

 傷に触れると少しヒリヒリするとも言っていたから、しばらくは続くだろう。

「月森くん・・・」

 早く治って欲しいという思いから、思わずその傷に口付けてしまった。驚いて月森が目を開いた。・・・顔が真っ赤だ。

「香、穂・・・子」

「あっ、あの!・・・えーっと、その・・・あ!早く治るように、おまじない!」

「おまじない?」

 うんうんと勢いよく首を振る。

「月森くんの綺麗な顔に跡でも残ったら大変だもの」

「・・・それじゃあ」

 え、と思う間もなく、香穂子の体が傾ぐ。気がつけば天井を見上げていた。

「・・・あれ?」

「傷が残ったら、毎日君に『おまじない』をしてもらえるんだな」

「ちょっ」

 と、という言葉は飲み込まされた。





 香穂子の体のことがあるから最後まではしない、と宣言した通り最後まではいかなかったけれど。
 月森を受け入れられる状態にあったならば、きっと香穂子のほうが我慢できなかったと思う。
 たかがキス。されど、キス。
 息の上がった香穂子を悠然と見下ろして、月森が微笑んだ。



「イレギュラーなど御免だと思っていたが、たまにはやってみるものだな」














ヒトリゴト。(ブログより

眼帯・・・難しすぎるぜ・・・!!
テニスコートでケガする話にしようとしたのですが、無理があるのでこんなんなりました。
個人的には眼帯にあまり萌えるということがないので、難しかったです。なのでビミョーにお題から外れている気がしないでも、ない(汗

 

 

2010.11.29UP