細いうなじ

 




 

 定期考査が目前に迫ったある日。
 図書室で月森と香穂子が並んで勉強をしていた。
 とは言っても、英語を教えてもらっているのだが。

「えーっと、これは・・・haveがつくから・・・」

 ぶつぶつと独り言を言いながら月森から出された問題を解いていく。月森はそれを横目で眺めながら、楽典を読んでいた。

「月森くんのそれは、テスト範囲なの?」

 息抜きなのか諦めたのか、解けない問題から顔を上げて、月森を見る。

「いや。範囲ではないが、・・・多少関係はしてくるな」

「私、音楽科に転科しなくて、ホントに良かったかも・・・」

 コンクールが終わった後で、金澤と担任から正式な打診があったが、断ったのだ。ヴァイオリンを弾くのは好きだけれど、それで身を立てようとは思っていないことと、途中から転科するリスクがあまりにも高すぎるからだ。

「こういう知識を覚えようとしたらヴァイオリンの練習がおろそかになっちゃうよ」

「君はまだヴァイオリンを始めたばかりだから。少しずつ吸収していくといい」

 うん、と頷いて、また問題に取り掛かる。真剣な横顔を見ながら、月森が頬杖をついた。
 そして、何となく見やったそこに。
 視線が釘付けになってしまった。
 
(・・・跡が)

 先日大雨に降られた時の出来事が甦る。
 背後から香穂子を求めた時に付けた、所有の印。
 赤く咲いたその跡が、くっきり残っている。

「・・・!」

 パタンと、らしくない仕草で楽典を閉じた月森を、香穂子が見上げた。

「どうしたの?」

「・・・いや、何でも・・・」

 ぎこちなく視線を逸らして、口元に手を当てた。
 細いうなじ。
 紅い跡。

「・・・・・・」

 とうとう顔を覆ってしまいながら、月森が小さく呻いた。

「どうしたの?大丈夫?」

 真っ赤になった月森を覗き込もうとして「大丈夫だから」と手で制された。

「すまなかった、香穂子」

 ん?と無邪気な笑顔で首を傾げる彼女に詫びたところで、その首筋の跡が消えるわけでもなく。
 これを誰も気付いていなければいいと願いながら、小さくため息をこぼした。










ヒトリゴト。(ブログより

加地は絶対気付いてるといいと思う(笑
土浦も気付いて悶々としてるともっといいと思う(おいおい
天羽ちゃんにからかわれたり、柚木にもネタにされたら、もっともっといいと思う(大笑

 

2010.12.1UP