眼鏡

 




 

 まただ。
 月森が眼鏡をかけていると、香穂子が自分を見つめる頻度が高くなる。
 家では眼鏡のほうが気が楽でいい。だから休日に自宅に彼女を招いた時は、大体眼鏡をかけている。
 香穂子のヴァイオリンの練習を見ている間はお互い集中しているが、ふとそれが途切れた時に、彼女の視線を痛いほどに感じるのだ。

「・・・月森くんて、眼鏡、似合うよね」

「そうだろうか」

「眼鏡してると、3割増だよ」

 何が3割増なのかと問うても「こっちの話」と教えてくれない。
「その眼鏡、かけてみてもいい?」

「構わないが、度が少しきついかもしれない」

 香穂子が言うには、眼鏡を指で押し上げる仕草や、引き抜くときの仕草や表情が好きらしい。
 特に意識しているわけではないが、なんとなくゆっくり引き抜く。
 じっと香穂子が自分を凝視している。

「どうぞ」

「あ、ありがとう」

 はっと我に返って、慌てて手を差し出す。壊さないように、丁寧に受け取る。

「度がきついって言っても、ぶ厚くないんだね」

「今の技術が進歩して、度がきつくても薄いものがあるようだ」

「へー・・・、目が悪い人って、びん底眼鏡みたいなのしてるイメージしかなかったけど」

 恐る恐る、遠めの位置で眼鏡を覗き込む。

「・・・うわ」

「だから言っただろう」

 裸眼の人間には、度のきつい眼鏡はクラクラするものだ。香穂子も例外にもれず「目がよりそう・・・」と目頭を押さえた。

「無理をすると頭が痛くなるようだから、もうやめたほうがいい」

「うん、ありがとう」

 目をぎゅ、とつぶったまま、眼鏡を返す。手の平が軽くなったから、月森が眼鏡を受け取ったのだろう。

「大丈夫か?」

「平気。何にも心構えがなかったから、ちょっとひどかっただけ」

「こちらへ」

 両肩に手を添えて、ベッドに座らせた。

「くらくらする・・・」

「平衡感覚がないほどなら、横になるといい」

「そこまでは、だいじょう・・・」

 ぶ、と言いかけて、はたと気がついた。

(ベッドに座ってる・・・)

 自分の両肩には、月森の手。だから顔も近い。

「だだだだだ大丈夫っ!」

 ぐぐぐ、と肩を押し返す。月森が驚いて目を見開いた。

「どうしたんだ?」

「なっ、何でもないよ!」

 下手に意識しなければいいのに、そう思うほど今の自分たちの状況があやしいものに思えてきて、声がひっくり返る。

「もう、大丈夫だから!ゴメンね」

 しばらく目を丸くしていた月森が、ふ、と笑った。
 ・・・気付かれた。

「頭がくらくらするというから、一番近かったベッドに座らせただけだ。・・・何を考えていた?」

「ななな何も・・・!」

 大した力をいれずに香穂子の肩をトンと押すと、あっさりと倒れこんだ。突然目の前が天井になったことで、一瞬自分の状況が飲み込めない。その隙に月森が真上から香穂子の顔を覗き込んだ。

「そこまで期待されたら、応えないわけにはいかないだろう」

「何も期待してないし!応えなくていいから!」

 少し冷たい手が、するりと服の下を滑り込んできた。その冷たさに「うひゃあっ!」と情けない声を上げて逃げを試みる。・・・が、逆に捕らえられてしまった。

「君が本当に嫌なら、止める」

「・・・・・・」

「嫌じゃないなら、拒まないでくれ」

「・・・いよ」

 聞き取れずに耳を近づける。香穂子の吐息が耳をくすぐる。

「嫌じゃ、ない・・・よ。恥ずかしいだけで・・・」

「そうか」

 この場には不似合いな程、幼い笑顔を見せた。

「香穂子」

 嬉しそうに、頬に唇を寄せた。



「好きだよ」















ヒトリゴト。(ブログより


私が眼鏡スキーなのですよ(ぇ
眼鏡を指で押し上げるのとか、伏し目で眼鏡を引き抜く仕草とか、好きなのですよ。
3割増でいい男に見える! 更にスーツだと尚良し。でも靴はとんがってないやつで。
最後までとっておこうと思っていたのですが、書きたくて書きたくて(おいおい)、我慢できなかった・・・!
目がクラクラするのは、私の経験からです。それほどでもない人もいるかと思います。

 

 

2010.12.7UP