| 手錠 |
何をしてるんだ、と大きく顔に書いて、月森が香穂子を見つめている。
「あ、これ?」
手首に何か巻いてある。リボンだとすぐに気付いた。
「こうするとね、願い事が叶うんだって」
「願い事?」
うん、と嬉しそうに頷いた。
そういえば高校の頃にもそんなことをしていたなと思い出して、しかしあれはリリのおかげだとか言っていなかっただろうか。
そんなことを考えていたのが表情に出ていたらしく「リリの魔法はかかってないけどね」と舌を出した。
「では何故今頃になってそんなことをしているんだ」
「言ったでしょ、願い事が叶うって」
そんなものに頼るような願い事など叶うはずがないだろうと思うのだが、香穂子は至って真剣なようだ。
「・・・好きにするといい」
月森が小さくため息をついた。
せっかくの休日だからどこかに出かけたいのだが、外は雪。ウィーンの冬は長い。
先ほどまでヴァイオリンで合わせていたのだが、月森の携帯にかかってきた電話のせいで中断されている。
すまない、と一言告げて携帯を手に部屋を出て行き、香穂子が一人でスケールをさらっていた。・・・はずだった。
「香穂・・・」
子、と言いかけて月森が口を噤む。僅かに開けたドアの向こう、部屋に一人でいる彼女が何かを喋っているのだ。
「・・・蓮が毎日幸せでありますように。もう離れ離れにならずに、ずっと一緒でいられますように」
そうしてゆるく巻かれた手首のリボンに、小さく唇を落とした。
その横顔がとても綺麗だと思った。
だけれども、それだけではない感情が宿ったことも確かで。
「香穂子」
今度は聞こえるようにはっきりと呼ぶと、香穂子が顔を赤らめて振り返った。
「あっ・・・、びっくりした。電話、終わったの?」
「ああ」
そっかと微笑む瞳には、先ほどの真剣に願う想いが見えなかった。いつもと変わらない、優しい微笑み。
「俺はいつも幸せだと思う。君がいる毎日を、俺は・・・願っていた」
香穂子のヴァイオリンを優しい手つきで取り上げ、手首に巻いていたリボンを軽く引っ張る。あっけなくしゅるりと解かれたそれを、上目遣いで香穂子を見上げながら小さく唇を落とした。
「・・・っ!」
「君の願いは、叶っただろう」
「聞いてたの?!」
聞こえたんだとしれっと返し、香穂子の手首に素早くリボンを結びつけた。
自分の手首にも器用に巻きつける。
「ちょっと、・・・蓮?」
「こうしていれば、離れ離れになることもない」
指をからめて、手をつなぐ。香穂子が一歩後ずされば、月森も一歩進む。やがて狭い練習部屋の壁に、背中が当たった。リボンで繋がった腕を、香穂子の頭上に縫いとめた。
「君がいればそれでいい。傍にいてくれるなら」
唇が触れそうなほど近くで、月森が囁いた。その纏う空気に、香穂子は目を閉じた。
「傍に、いてくれ。ずっと」
「うん」
深く、長く。
唐突に彩られた二人の空気が、部屋の中を満たしていく。
ちゅ、と水音を立てて何度も何度も交わされるそれに、香穂子の思考が奪われる。
あとはただ、突然高められた熱に、お互いの身を投じるだけだった。
ヒトリゴト。(ブログより
これ以上書くと月森が暴走しそうなので(おいおい
手錠まんまだとこの二人は難しいので、赤いリボンで。
お互いの手首に巻く、というところに個人的に萌えたので書いてみましたです。
2010.12.11UP