「香穂子。明日、良かったら出かけないか?」

そう言って良かった。

なぜなら。

今日という日を




「おはよう」

駅前の噴水で待ち合わせにした。時間より少しだけ早く着いたおかげで、のんびりと歩けそうだ。

「どこに行きたい?」

「うーん、何もしないでただぶらぶらしてたいな」

「そうか」

いい天気だし、外の空気をゆっくり吸うのもいいだろう。

行くあてもなく、歩き出した。



「これ、かわいいなあ」、「あれ月森くんに似合いそう」。

くるくると見るものが変わっていくそのスピードに追いつけない。

「君は色々なものを見ているんだな」

「そうかな?」

天羽ちゃんなんてもっとすごいよ、と笑う。

「冬海ちゃんも同じこと言ってた。何を見てたのかわかった頃にはもう次、なんだって」

「天羽さんの場合は、もう癖だろう」

でなければ情報部員などになっていないだろう。

「あー確かにそうかもね。いっつも情報最先端だし」

それが助かる時もあれば困る時もあるんだよねという言葉には頷かされる。

「あ・・・」

小さな雑貨店のショウウィンドウ。

何気なく覗き込んだと思ったら、視線が釘付けになっている。

細いチェーンに下げられたペンダントトップには、青いサファイヤ。キラキラと光を反射している。

「欲しいのか?」

「え、ううん!違うの」

値段を見てみると、イミテーションだからか、さして高くもない。

「行こう、香穂子」

手を引っ張って雑貨店に入る。一人でだったら決して入らないであろう雰囲気だったが、今は香穂子がいる。それに何より、俺が贈りたかった。

「え、いいよいいよ月森くん!」

そうこうしている間に、会計も済ませる。

店を出ると「・・・ありがとう」と嬉しそうに笑った。



公園のスタンドで紅茶を買って、芝生に座る。親子がボールで遊んでいるのを微笑みながら見つめていた香穂子が唐突に口を開いた。

「今日ね、誕生日なんだ」

「・・・え?」

驚いた?といたずらをした子供のように舌を出して笑う。

「今日ね、私の誕生日なの。だからこれ、月森くんからのプレゼントだと思って大切にするね」

ありがとう、と。

小さく告げられた言葉に何も返せなかった。

「知らなくて、すまなかった」

「気にしないで。わざわざ言うほどのことじゃないし。私だって月森くんの誕生日知らなくて、だいぶ過ぎてからお祝いしたから、おあいこだよ」

「・・・香穂子」

なあに?と首を傾げて尋ねる彼女を見下ろした。

「誕生日、おめでとう。君が生まれた日に一緒にいることができて、良かった」

「ありがとう、月森くん」

そう言って笑った香穂子の笑顔が、とても綺麗だと思った。

 

 

 

2010.10.3UP