加地×日野です。それでもいいよ!という方はどうぞ。

I'm yours.




 一瞬で。

 僕は。


 ・・・恋に、落ちた。



 出会いは、本当に偶然で。

 練習試合の帰りに通りがかった公園の片隅で、愛しそうに、楽しそうにヴァイオリンを奏でていた。

 時々この公園で楽器を弾く人を見かけたけれど、彼女だけは何故か目を逸らせなかった。

 拙い、子どもが弾くような音色の中に、暖かい・・・優しい気持ちが溢れている。

 時々つっかえながらでも微笑みながらヴァイオリンを奏でる彼女の姿は。

 本当に、綺麗だと思ったんだ。

 何人たりとも穢すことのできない、眩しい輝きを放ちながら。

 女神が降りてきたとさえ思った。

 その姿に一瞬で恋をして、焦がれて。

 僕の心の中で彼女の存在がどんどん大きくなって。

 胸が痛くなるほど人を想ったことなんて、今までなかった。それくらい、僕は、・・・君が。



「本当にいいのか?」

 父が何かを探るような目で僕を見た。

 だから僕はしっかりと見返して言った。

 僕の意思に迷いはないことをわかってもらうために。

「考え抜いて決めたから、後悔はないよ」

 そうか、とだけ呟くと、父は小さく息を吐いた。

「お前が自分から何かをしたいを言ってきたのは初めてだな」

「・・・そうだっけ?」

 そうだよ、と苦笑いして、編入手続きに必要な書類を指で弾いた。

「ヴァ イオリンは母さんから、高校は中学校の先生からの勧めだったな。・・・お前が星奏に編入したいと言い出したときは正直驚いたが。今の学校より レベルも少し下がるだろう。将来のことも考えての決断だろうから私はとやかく言わないよ。・・・私と母さんの母校は、とてもいい学校だ。あの自由な校風 は、きっとお前にも合うだろう」

「僕は・・・うまく、やれるでしょうか」

 思わず発してしまった言葉だった。

 彼女に会える楽しみのほうが大きいけれど、会った後の不安だって少なくはない。

 そんな思いを、父は感じ取ったようだった。

「お前なら」

 父は、穏やかに微笑んでいた。



 彼女に会える。

 星奏学院はマンモス校だから、彼女を探すのは大変かもしれない。

 でも僕は彼女を見つけ出せる自信がある。

 あの、太陽のような光を放つ彼女なら。

 ・・・けれど。


 僕はヴァイオリンを・・・音楽を、諦めた。

 偶然君を街で見かけて、こっそりついていった先に、その「きっかけ」がいた。

 王崎さんと、・・・月森蓮。

 親しそうに話している光景は、傍から見ればよくある光景だ。

 でも僕には大きな衝撃だった。

 それは僕の中で、彼女に対する見方が大きく変わった瞬間でもあった。

 あの二人と一緒に演奏できる人なんだ。

 その僕が、彼女に会える資格は、・・・あるんだろうか。

 音楽を諦めた人間が近くにいたら、彼女の足を引っ張ることになりはしないだろうか。

 輝く、あの音色の傍にいることを。

 僕は・・・許されるのだろうか。


「・・・そんなこと」

 そうだ。

 考えたって仕方ない。決めたんだ。

 彼女の傍にいたい。優しい、彼女の暖かい音に包まれていたい。

 笑ってくれるのなら。

 傍にいさせてくれるのならば。

 僕は。

「道化師にだってなれる」

 もうこれから先、余計な不安に怯える僕なんて、蓋をして重石を乗せて、海より深く沈めてしまおう。

 彼女に出会った後の「加地葵」という人間には相応しくない。



 転入初日。

 付き添いで来てくれた父とは、職員室の前で別れた。

「行っておいで。私は母校をもう少し見てから帰るが」

「行ってきます、父さん」

 もう僕の心は君のことしか考えられなかった。

 そんな僕を、父は軽く苦笑して背を向けた。


 甘く、胸が痛む。

 君の事を考えるだけで、この想いが溢れ出しそうだ。

 けれどこの痛みは、苦しいものじゃない。

 どこまでも、どこまでも、甘さだけでできているこの痛みは、とても心地のいいものだ。


 2年2組が僕の編入先になった。

 どんなクラスなんだろう。担任の先生の後ろを歩きながら、なんとなく予感がした。

 君がいるだろうその予感。

 こういう時の僕の予感は当たるんだ。


 入り口の前で深呼吸。

 これから、この教室が、僕の残り少ない高校二年生生活を送る場所。

 きっといる。君が、この教室に。

 そして。



 僕は、・・・僕は。

 初めて、信じてもいなかった「神様」に、心から感謝したい気持ちになった。

 君に会ったら言いたいことがたくさんあったはずなのに。

 あまりにも嬉しすぎて何もかも吹き飛んでしまった。

 これから君とどんな時間を過ごせるのか、期待に甘く胸を疼かせながら。

 僕は、彼女の傍にいられる喜びを抑えることができなかった。




「君に、会いに来たんだ」




 僕の心は君のもの。

 だから、僕は。

 僕の全ては、君のものだ。

 ねえ、そうでしょう?











ヒトリゴト。(ブログより


「カミサマの言うとおり!」出品作品です。

既出の月日3部作、今回の加地話、火日、土日の4点を提出させていただきました。

これ、お題が全然違うんですよね。せっかく考えられたお題を、あっさりと違うものにしてしまいました・・・と気付いたのはこの企画で展示されてから(遅っ

プライベートでドタバタしていて、ネットができる状況にない時に締め切りとなってしまうため、無理を言ってかなり早く提出させていただいたのです が、パッと思い浮かんだものをマイタイトルにしていたのです。それをそのまま出してしまいまして。

管理人様には本当に申し訳ないことをしてしまいました。ココで謝ってもな・・・