きみへ還る音




 最近、俺は変わったらしい。
 クラスメイトや周りの人がそう噂していると、香穂子が教えてくれた。
「・・・下らないな。俺は何も変わっていない」
「そうかな?私もそう思ってたんだけど」
 想いを告げて。
 同じ想いを返してくれて。
 下の名前で呼ぶようになって。・・・彼女は「恥ずかしいから」と未だにそのままだが・・・
 登下校を共にするようになり、休日を一緒に過ごすようになってから、彼女との時間も少しずつ増えてきた。
 そんな中で、天気がいいからと屋上で練習している放課後。
 休憩の為にベンチに座りながら、突然香穂子が言い出したのが「最近、月森くん変わったって噂してるの知ってた?」だった。
 噂なんてどうでもいい。大概尾ひれがついて事実とかけ離れた想像が先行するものだ。
「雰囲気が柔らかくなったよね」
 話しかけやすくなったって天羽ちゃんも言ってたよ、と自分のことのように嬉しそうに笑っている。
「キラキラ光る海みたいなんだよ。音がそんな感じ」
 凪いだ海。どこまでも青い、青い海。
 太陽の光を反射して輝く海。
 そんなイメージなのだと、言葉を選び選び、香穂子が言った。
「・・・乱反射」
「え?」
「そう、乱反射だ!」
 いい言葉思いついた!とにこやかに笑った。
「音がキラキラしてて、月森くんの音が反射していろんな所に響いていくの」
「・・・・・・」
 聞きようによっては音が浮かれているとも取れるのだが、彼女に限ってそんな回りくどい言い方はしないだろう。言葉の裏側を探る癖がまだ抜けない自分に苦笑してしまう。
「ありがとう、香穂子」
「ううん、私こそうまく言えなくてごめん」
「いや、・・・嬉しかった」
 ではもう一度合わせようかとヴァイオリンを構えると、嬉々として香穂子がそれに倣う。
 もう慣れたスタートの合図。
 視線を合わせて、同時に弓を引く。
 そんな一瞬さえ、愛しいと感じるようになったのは、君のおかげだ。
 他人を拒絶することしかしてこなかった俺に、君は真っ直ぐに飛び込んできた。どんなに払っても、食い下がってきた。大抵一度で諦めて離れていく人間が多 い 中、君だけは何度も俺に近づいてきた。そんな君に戸惑う俺のことなぞ構わずに、君のペースに巻き込んで。・・・それを受け入れられるようになったのは、い つからだろう。

 君とこうしていられるようになった今、彼女の言う「乱反射する音」は、必ず君に辿り着く。どんな方向に跳ね返っても、君の元へ帰る。
 絶対に。
 もしもこれから先、この身が君の元から離れてしまうようなことがあっても、この音色と想いは君のものだから。

 きらきら輝く音の欠片たち。
 反射して、跳ね返って、彼女の元へ。
 俺がどんなに君を想っているか、伝えて欲しい。
 言葉だけでは伝えられない想いを。
 届けて欲しい。

「きみを・・・」









眠れない夜に、君と俺とやさしい音、と続き、これにて3部作完結です。

長いお話を読んでいただき、ありがとうございます。