| 気が付けば君を探してしまう |
なんとなく集中できない。
練習室の使用時間は限られているから、有意義に使いたい。しかし一つの存在が集中させることに邪魔をする。
「日野・・・」
そういえばこの練習室にいた時に、彼女に会ったのだ。
ヴァイオリンてこんなに綺麗な音がするんだねと、無邪気に笑っていた。
そして、初めて彼女の音を聴いた時に愕然としたのだ。
あまりにも拙すぎる。音楽の知識や自信がなさすぎる。
それを責めることもしたけれど、彼女は引き下がらなかった。
むしろ同じヴァイオリン奏者として話を聞かせて欲しいと追いかけてきた。
どんなにあしらっても、めげずに。何度も、何度も。
「ひの、かほこ」
どうして俺は、彼女を思い浮かべてしまうのか。
輝くような笑顔に、心が満たされているのか。
幼稚ともいえる技巧の中に、惹かれる音色を見つけるたびに安堵するのか。
・・・どうして視線が彼女を探してしまうのか。
今までこんなことはなかった。
誰かを目で探すなど。
「どうかしている、俺は」
そう。
どうかしているのだ。
彼女を思い浮かべながら響かせる音色が。
こんなにも彩り豊かなものだということが。
2010.2.15UP