思い切って名前で呼ぶ

 




 

 何故か眠れずに、何度も寝返りを打つ。
 特に何をしたわけでもないのだけれど。
 たった一つ、月森の頭の中を占領して離れない事柄が、彼を「眠らせない」のだ。
 何度目かの盛大なため息をついて、また寝返りを打つ。
 ここまで眠れないのならいっそのこと起きていたほうがマシだとシーツを跳ね除けて、らしからぬ急な動作で起き上がった。

 月森を眠らせない、一つの事。

「・・・了承、してくれる・・・だろうか」

 香穂子のことを名前で呼んでみたいという気持ち。
 今まで同世代の女子に名前で呼ぶなんてことをしたことがない。
 けれど、彼女を苗字ではなく下の名前で呼ぶことで、距離が縮まるような気がするのだ。
 もっと近づきたい。
 出来ることならば、この手にすることができたらどれだけいいだろうと思う。
 あの笑顔をいつも向けてくれたなら、自分はこの上なく幸せだろうと。
 その反面、もし了承してくれなかったら・・・とネガティブな思いも渦巻く。そんなことでギクシャクしないだろうとは思うが、きっと自分は今まで通りに接することができないだろう。
 色々な思いが交錯して、だけれども負の気持ちを凌駕するその衝動に。

 (・・・従ってみようか)

 自分の気持ちに従ってみようか。
 断られたら、なんて考えない。
 今までの自分だったら、リスクがあるものには挑戦しなかった。それを変えた日野香穂子という女子生徒に、自分のこの気持ちを託してみようと。
 明日(もう日付が変わって朝方に近いのだが)、彼女に会ったら言ってみよう。



 「日野。・・・その。香穂子と、呼んでもいいだろうか」

 きっと彼女は笑顔で頷いてくれると信じて。

 

 

 

 

 

2010.12.4UP