相手が途惑うほど目を見つめる

 




 

 視線を移すと、ぱっと離れる。
 また戻すと、じっと見つめている。

「何か?」

 とうとう根負けして、無視できずに問いかけてしまった月森に「何が?」と不思議そうに首を傾げた。

「何が、じゃないだろう。さっきから人の顔をじろじろ見ているようだが、俺の顔に何かついているのか?」

「うん」

 一瞬、昼食の食べかすでも付いているのかとドキッとしたが、その後で鏡を見たからそれはない。

「ドキッとした?」

 いたずらっ子のように舌を出して笑うが、月森にとってはあまり気分のいいものではない。
 正直にそう言うと「うん、ごめん」と本当にそう思っているのか疑うほどあっさり、さらりと謝ってみせた。

「月森くんの目の色って、綺麗だね」

「は?」

 うんだから目の色。と月森の瞳をじいっと覗き込む。
 段々近づいてくる彼女の顔に、迷惑そうな顔をして逸らす。・・・顔が熱っぽいのを悟られないために。

「琥珀色、っていうの?薄すぎない茶色っていうか、透明な感じ」

「・・・外国の血は混じっていないが」

「え、そうなんだ?えーそれじゃあ尚更だね」

 何が尚更なんだろうと思いつつ「もういいだろう」と肩を押しやる。

「ずっと見ていたくなるよ」

 少しうっとりと月森の瞳に見入る。彼女の瞳を見返せば見詰め合うはめになるから、微妙に視線をずらした。

「綺麗だねえ」

「・・・日野」

「うん?」

 頭一つ半近く下から見上げる香穂子に小さく咳払いをして。

「それならば」

「え?」

 微妙に合うことのなかった月森の視線が、かっちりと音がしそうな程に香穂子の視線を受け止めた。

(うわ、うわわわわわ・・・)

 澄んだ、琥珀色の瞳。
 その瞳の中に自分が映っている。
 そう自覚すると、今まで何の恥じらいもなく見つめていた月森の瞳を凝視できなくなってきた。

「何故逸らす?君から見ていたんだろう?」

「いや、うん、そうなんだけど、あの・・・」

 しどろもどろで逸らそうとするその視線を、追いかけて覗き込む。

「君の瞳の色も、綺麗なんだな」

「・・・!そういうことを、真顔で言わないでくれるかな?!」

「何故だ?そう思ったから言っただけだ」

「普段は言わないくせに!」

 そうか?と聞くとそうだよ!と返ってくる。果たして本当にそうだっただろうかと、つと上を向くと、香穂子が安心したように息を吐いた。

「とにかく、ごめん。月森くん嫌だったのに」

「いや、そうでもない」

 え?と見上げる香穂子に微笑んだ。

「君の視線ならば、いくらでも構わない」

「・・・それ、素で言ってる?」

「素?」

「・・・素なんだね・・・」

 あーあ、とがっくり肩を落として、香穂子が呟いた。

「最近の月森くんて、人格が違う気がする」

 以前の自分も、今の自分も同じなのだが、香穂子にはそう思えないらしい。

「俺は俺だ。どこも変わらない」

 どこも変わっていないけれど、絶対に変わった。
 そう反論しようと顔を上げて、結局その言葉たちは日の目を見ることはなかった。

「・・・!」

 これ以上ないくらい、優しい、満面の笑み。
 笑うと少し幼くすら思えることを、最近になって知った。

「君が俺のことを見るのならば、俺も同じように君を見ることにする」

「・・・ええええ」

 恥ずかしすぎて、絶対に自分は月森の視線を見返せない。
 赤くなった頬を両手で押さえながら、香穂子が呻いた。

「・・・もうしません、ごめんなさい」

 それは残念だな、と聞こえた気がした。

 

 

 

 

2010.12.4UP