どもりながら好きと伝える

 




 

 天羽とやってきた森の広場で弁当を広げながら、唐突に「そういえばさ」と切り出された。

「月森くんと付き合ってどれくらいになるの?」

「何、突然・・・。コンクール終わってからだから、一ヶ月?」

「なんかあんまり恋人らしい雰囲気ないなあと思ってさ。その辺りどうなのよ?」

「ええええ?」

「ぶっきらぼうでも『香穂子、・・・好きだ』くらい言ってくれてるんでしょ?」

「・・・・・・」

 無言で肩を落とした香穂子に、天羽が慌てる。

「え、ちょっと、もしかして・・・」

「・・・天羽ちゃあん・・・」

 泣きそうな瞳で見上げる様子が、捨てられた子犬のようだった。





「月森くん」

 いつもの帰り道。どことなく様子のおかしい香穂子に気付いていながらも、問うことをためらっていた月森が「どうした?」と優しい瞳で見下ろした。

「あのさ・・・。お願いというか、聞きたいこと、というか」

「何だろうか」

 言ってしまった以上は言わなくてはならない状況なのだが、口にすべきかどうかでまだ迷っているようだった。
 根気よく待ち続け、ようやく搾り出された一言に、月森は言葉を失った。

「私のこと、好き?」

「・・・ああ」

 僅かに頬を赤らめて視線を外す。それがどうしたんだと言わんばかりに、ちらりと視線をよこした。

「月森くん、・・・」

 何気なく見やっただけだったのに、今度はギョッとした。
 涙を浮かべて、今にも泣きそうなのだ。
 周りにはまだ生徒がいる。何事だと言いたげにじろじろと通り過ぎていく生徒たちの視線を遮るように香穂子を庇う。

「場所を移動しよう」

 近くの小道に入れば人通りも少ない。





「どうして泣くんだ」

「・・・泣いてないもん」

 とうとう一滴の涙をこぼしてしまいながら、悔しそうに唇を噛み締めて月森を見上げる。
 その表情に困ったなと漏らせば、香穂子の瞳からまた涙がこぼれた。

「いや、君に対して困っているわけじゃない。・・・俺が何かしたから君がこんなことになっているんだろう?」

「月森くんは、何も・・・してないよ」

「しかし現に君は泣いて・・・」

「一回でいいから『好き』って言ってほしいだけ」

 月森と香穂子の言葉が同時に重なり、聞きそびれた月森が反芻すること数秒。

「・・・は?」

 目を見開いて、香穂子を見下ろした。

「だから、・・・一回でいいから、私に『好き』って言ってほしいだけなの」

 なぜそんなことを言わなくてはならないのか、というのは愚問なのだろうか。
 言われてみれば、コンクールが終わったあと、好きだとはっきり告げなかった気がする。心の中で呟いていたって、当然彼女に聞こえるわけがない。
 それで香穂子を不安にさせていたことを、今ようやく気付いたのだ。

「すまなかった、香穂子。君を不安にさせていた」

「・・・うん」

「香穂子。君が・・・す」

 たった3文字。それなのに、どうしてこうも喉から先に出ていってくれないのだろうか。

「す、・・・す」

 香穂子が見上げている。涙に濡れた瞳で、自分の心の奥までをも見透かすような真剣さで。

「君が、・・・好」

 止まり始めていた涙が、ぶわっと溢れた。
 それに焦った月森が、香穂子を抱きしめた。柔らかい耳朶が、唇に触れた。

「君が、好きだよ」

「・・・私も・・・」

 小さく返ってきたその言葉に、ほうと息を吐いた。

「好きだよ、・・・君が好きだ」

「・・・月森くん」

 くすぐったそうに身を捩る。月森の腕は緩まらない。

「香穂子。君が好きだよ、・・・本当に」

 びくん、と香穂子が腕の中で体を震わせた。耳まで真っ赤にしている。
 ゆっくりと体を離すと、俯いたまま顔を上げようとしない。

「香穂子?」

「み、みみみみみ見ないで・・・!私今、すっごくみっともない顔してるから!」

「君はどこも可愛いと思うが」

「!!・・・そういうことを、真顔で、更に低い声で言わないで・・・!」

 物凄い勢いで顔を上げた香穂子の頬はまだ赤い。

「俺が言った通りだ。・・・可愛い」

「・・・っ!」

 もうわかったから!お願い何も言わないで!と今度は逆のことを叫ばれて、月森がしばらくへこんだことは秘密である。















ヒトリゴト。(ブログより

ギャグですよ!ええギャグですとも!
天然月森に、あの声で「かわいい」言われたらどうなるか!(興奮しすぎ
このネタはタイトルを見た時点で浮かんでたのですが、ギャグにするか真面目にするかでちょっと迷いました。でもギャグを書きたい気分だったらしいので、こんな仕上がりです。

 

 

 

2010.12.12UP