キスで始まる二人だけの朝

 




 

 朝、目覚めると、香穂子が穏やかな寝息を立てて眠っている。
 彼女が吐く息にくすぐったさを覚えながら、また俺も眠りの海へたゆたう。
 彼女がいる、幸せ。





「・・・ん、れーん!」

 眠りから引き戻そうとしている香穂子が、俺を呼んでいるようだ。
 朝が苦手なせいで、毎回大変なのだとこぼしていたな。

「笑ってないで起きてくださーい」

 鼻をつままれた。息苦しさに口を開けて空気を求める。

「起きた?」

「あと、5分・・・」

「5秒ならいいよ」

「ああ・・・」

 毛布を被ろうとするのを遮られた。
 いーち、とカウントが始まる。その声さえも眠りを誘うようだ。

「・・・5!」

 がばっと毛布を剥ぎ取られた。驚いて目を開けると「ようやく起きた!」と仁王立ちになっている香穂子がいた。

「おはよう、蓮」

「・・・おはよう」

 身を起こすと毛布をたたみながら「顔洗ってきてね」と言った。

「その前に、やることがあるだろう?」

「へっ?」

 奇妙な声で答える彼女に吹き出しつつ。両手を伸ばした。

「ほら」

 やること、を思い出すと顔を赤らめる。けれど拒まれることはない。
 しょうがないなあと嘆息して、彼女の顔が近づいてきた。

「はい。・・・起きてね?」

 毎朝必ずする、「おはようのキス」。これがないと起きた気がしない、とは言わないが。

「ああ、起きる。でも、香穂子」

「なあに・・・わわっ!」

 彼女の腰に腕を回して、そのままベッドに倒れこむ。加減したつもりだが、少々勢いがつきすぎたようだ。

「すまない。加減したつもりだったんだが。痛くないか?」

「・・・大丈夫、だよ。うん」

 痛むところがないか確認すると、それではと改めて腕の中に閉じ込めた。

「おはよう、香穂子」

「もう今更だよ・・・」

 そうだなと笑って、目が合う。自然と唇を寄せた。
 小さく水音を立てながら離す。

「まだ、足りない」

「もう朝だよ?ゆうべ、あんなに・・・」

 したのに、という声は小さくなって消えた。

「それでも、足りない」

 唇から、頬、耳。首筋に触れると、小さく肩が揺れた。
 首筋に小さく紅い印がついている。昨夜の、名残。

「いいか?」

「・・・聞かないでよ、ばか」

 朝ごはんが・・・と呟く声は、最後まで紡がせずに飲み込まれて消えていった。




2010.2.22UP