とびきり甘いハニートースト

 




 鼻歌が聞こえる。
 何の歌かわからないが、彼女らしい飛び跳ねるような、元気がある曲。
 手早く食事を作り上げていく。
 俺はというと、手伝えることが紅茶を淹れるくらいなので、出番はもう少し後だ。



 今日は午後からスタジオに行けばいいから、朝は少し遅め。
 結局、昨夜彼女に無理を強いたおかげでギリギリまで眠ってしまったのだけれど。

「紅茶をお願いしまーす」

「わかった」

 準備はしてあるから、本当に「淹れる」だけなのだが・・・こうして俺にも仕事をくれることで、彼女は「二人で作ったご飯」と嬉しそうに笑う。
 昼食とも朝食ともつかない、微妙な時間の食事。
 それでも二人で摂るものは何でも嬉しいと思えた。

「それは・・・何だ?」

 俺は毎朝変わらないメニューだが、今朝の香穂子のトーストの脇に、飴色の液体が小さな器に入っていた。

「ああ、これ?ハチミツだよ」

 おすそ分けで貰ったけどおいしいんだよと言いながら、たっぷりと回しかけた。俺には正直かけすぎではないだろうかと思う程。
 いただきますと手を合わせて、ヨーグルトに手を伸ばす。
 香穂子はたっぷり乗ったトーストにかじりついていた。

「・・・ちょっと多かったかも」

「ハチミツは食べ過ぎると気持ちが悪くなる。少し減らしたほうがいいだろうな」

 そうする、と皿の空いているスペースにハチミツを落とそうとした時。



「待て、香穂子」

 今まさに滴り落ちるというところで呼び止めた。

「なに?」

 問いかけには答えず、黙って席を立つ。
 その間に零れ落ちたハチミツを指で掬い上げた。

「・・・蓮?」

 口に含むと、独特の甘さが広がる。俺には少し甘すぎるようだ。
 黙ったままの俺を訝しげに見上げている。その唇に、自分のを重ねた。

「れ、・・・」

 ハチミツを流し込む。それだけではない水音に、香穂子の体がぴくっと震えた。
 充分に彼女の唇を味わってから、ゆっくりと離す。

「れ、ん」

「俺には甘いようだ」

 でも、君のほうがもっと甘い。
 耳元で小さく言うと、頬を赤らめた。



とびきり甘い、俺だけのハニートースト。








ヒトリゴト。

いいじゃないか王道で。

2010.2.18UP