音でさえ厭い

 




「やめてくれ・・・」

 知らず、叫んでいた。

「俺の目の前で、ヴァイオリンを弾かないでくれ・・・!」





 傷ついた表情が頭から離れない。
 けれど言葉は消しゴムで簡単に消せるものではないから、もう後戻りはできない。
 何故あんな言葉を言ってしまったのだろう。
 はっと顔を上げた時には、彼女の顔は充分に「傷ついた」と物語っていて・・・
 涙を浮かべながら走り去って行ったのだ。

 香穂子の音は、自分にない音だとすぐに分かった。
 悪く言えば下手くそなことこの上ないのに、何故ああも気になってしまうのか。
 そうして考えても考えてもわからないその苛立ちを、当の香穂子本人にぶつけてしまったのだった。
 
「あ、・・・ご、ごめん、ね」

 くしゃっと顔を歪ませて、涙を零さなかったのは香穂子の矜持。
 きっと今頃、どこかで目を真っ赤にして泣き腫らしているのかもしれないが、月森にはどうすることもできない。





 一瞬。
 ほんの一瞬だったが、自分はあの音を嫌悪したのだ。
 嫌悪した自分に嫌悪して、あんな言葉を言ってしまった。
 そうじゃない。
 そんなことが言いたかったんじゃない。

 (ただ・・・その音が欲しかっただけなんだ)

 楽しそうに紡がれるその音の行方が、自分であって欲しいと。
 それだけだったのに。

「・・・泣かせちゃったね」

 いつからいたのだろう、柚木が姿を現した。

「日野さんなら、教室にいるんじゃないかな。・・・謝りたいなら、行ってくるといいよ」

 にこやかに言うその言葉を最後まで聞かずに、月森は屋上のドアをすり抜けた。







ヒトリゴト。(ブログより

 短すぎだよ・・・!(すみません
 続けてもいいんだけど、続き物にするとムダに長くなるのが私のクセなので、あっさり風味を勉強中。

 

 

2010.11.26UP