無邪気に笑う姿が好き




 いつも月森くんは無表情だとか鉄面皮だとか言われている。
 本人にも感情の起伏があまり表に出ないことは承知していて、でもそれを今更どうにかしようとは思わないとキッパリ言っていた。
 でも近くで見ていると、意外と何を考えているのかわかる。
 ほんの少しだけなんだけれど、瞳の揺れ方や仕草だとか、答えるまでのわずかな沈黙だとか。
 そういった事に気付くと、月森くんも普通の男の子なんだなあって思う。ただ表面に出す方法がわからないだけなんだろうな。





「日野」

「・・・へっ?」

 慌てて月森くんを見ると、呆れた顔で腕を組んで私を見ていた。

「考え事をしている余裕があるのなら、目の前のことに集中したらどうだ?」

 今日は練習室が満室で、外は雨だから外にも行けない。その分、音楽室や講堂に生徒が集中してしまって、完全に出遅れた私と月森くんは、私の教室で新しい楽譜の譜読みをしながら解釈について話していた。なのに考え事しちゃって、月森くんの話をまったく聞いていなかった。

「ごめんなさい・・・」

「・・・何を、考えていたんだ?」

 ふ、と目つきが優しくなる。
 ほら。
 こんなに柔らかく笑う人なんだ。

「いつもそうしてたらいいのに」

「は?」

 思ったことを口に出してしまって焦る私と、突然飛び出した話についていけない月森くんとの間に一瞬沈黙が下りた。

「月森くんて、周りが言うほどの人じゃないんだなって考えてたの」

「俺のことを考えていたのか?」

 うん、と頷く。

「周りから色々言われてるけど、月森くんだって普通の男の子なんだなーって」

「・・・普通」

 目をぱちりと瞬かせる。初めて言われたとでも言いたそうな。

「ヴァイオリンのことはね、勿論すごいなって思うんだけど。その他の部分で、話し方だったり、目が優しい時とか・・・私は」

 はたと我に返る。
 なんかこれって、告白っぽくない?
 そう思ったら、顔が赤くなってきた。・・・どうしよう。

「『私は』?」

 続きを促す月森くんは、本当に私が何を言いたいのかわからないようだった。
 不思議そうに少し首をかしげている。

「私は・・・そういう、素の月森くんが・・・いいな、って・・・」

 声が段々小さくなる。
 でも誰もいない教室で、机を一つ挟んだだけの距離で。
 どんなに小さく言ったところで聞こえてしまう。
 月森くんは何も言わない。
 怒ったのかなと恐る恐る見上げると。



 彼は、笑っていた。
 嬉しそうに。
 子どものような無邪気な笑顔で。

 でもそれは一瞬で消えてしまった。
 私と目が合うと、ほんの少し口角を上げただけの、いつもの微笑みに変わってしまった。

「君にそう言ってもらえるのは、その・・・嬉しい」

 少し睫毛を伏せた。
 その声音がとても優しくて。
 普段の硬さがない、本当の月森くんの声だ。



「ありがとう、日野」



 そうやって笑う表情も。
 柔らかく私を呼ぶ声も。
 月森くんのすべてが。



 私は、好きなんだ。

 

 

2010.3.13UP