暖かい場所をずっと思っていたけれど




 

 月森くんと付き合い始めてしばらくしたある休日に、借りていたCDと楽譜を返しに月森くんの家に行ったことがあった。

 家族は皆出払っていて誰もいないと淡々と言う月森くんに「寂しいね」と言うと「慣れている」と、これまた淡々と返ってきた。

 その時の裏側の気持ちを考えもせず。




「私、決めた」

 天羽ちゃんと冬海ちゃんと一緒に街へウィンドウショッピングに出かけた。なんとなく入ったカフェで頼んだ「今月のケーキセット」を待つ間、私は一つ、決心した。

「何を?」

「あったかい人になる」

「は?」

 二人の頭の上にはてなマークがたくさん飛んでいるのがおかしくて、思わず吹き出してしまう。

「失礼ね。あんたが突拍子もないこと言い出すからでしょ!」

「ああ、ごめんごめん。あのね、私、あったかくて居心地のいい人になろうと思うんだ」

 月森くんが私と一緒にいることで安らぐように。

 私の音楽が、彼を癒せるように。

 私の存在が、暖かくて居心地のいいものであるように。

「だから、私あったかい人になる」

「あー・・・なるほどね」

 天羽ちゃんが合点したと大きく頷いた。

「あんたは、今のままで充分だと思うけどね」

 ま、頑張りなさいな。

 運ばれてきたケーキセットで心あらずの天羽ちゃんが言った。



「頑張ったつもりだったけど」

 実際はどうだったのかわからない。

 聞きたくても、聞きたい人は遠い空の向こう、海を越えた遥か遠い地で頑張っている。

 あの時。

 寂しいねと私が言ったとき。月森くんは淡々としていたように見えた。でもきっと違う。

 家族が誰一人いない生活を長く続けていることに、寂しさを感じないわけがない。

 小さい頃からそういう生活が続いていたから、月森くんは隠すことを覚えただけなんだ。

 「寂しい」と表に出さない、その術を。

 それを私は気付きもせずに言ってしまったのだ。

 何よりも私がそれを言っちゃいけなかったのに。

 月森くんは、どう思ったんだろう。

 私は、どうすれば良かったんだろう。

 それを確かめる方法は、ない。



 あなたにとって、私は居心地のいい存在だった?

 月森くんの家族のようにとはいかなくても、暖かい場所だったのかな。




 ねえ、月森くん。

 

 

 

2010.7.25UP