一つの毛布に包まりながら明かす夜も




 

 せっかくの豪華ホテルなんだから広々と一人で眠りたいと言うのをあっさり却下されて、二人で眠ることになってしまった。
 嫌なわけじゃないんだけど、こんな広いベッドで眠れる機会なんてないんだし。

「じゃあ同じサイズのベッドを買おうか?」

 なんて真面目な顔して聞かないで。





 結婚記念日にと蓮がプレゼントしてくれた「ホテルでのんびり過ごす一日」。
 何もせず、ただのんびりと過ごすのはもったいないからとヴァイオリンを持ってきて、近くの公園で一緒に弾いたり、散歩してみたり。
 ホテルではケータリングサービスで、部屋に居ながらにして目の前で調理してサーブしてくれる。
 スパではゆったりとマッサージをしてもらった頃には、すっかり遅い時間だった。

「のんびりしてきちゃった」

 部屋に戻ると、眼鏡をかけて本を読んでいた蓮が顔を上げた。

「ゆっくりできたなら、それでいい。楽しんでもらえただろうか」

「うん、とっても!ありがとう」

 いや、と少しはにかむように笑うと、眼鏡を外す。
 その仕草が私は好きだ。
 あの綺麗な指先で眼鏡を外す様は、きっと誰が見たって「かっこいい」と言うに違いない。
 以前から言い続けてきたせいか、私がじっと見つめてしまうのにも慣れてきたようだ。
 オフホワイトのソファで、いつもなら行儀が悪いと言いそうな格好・・・ソファで横になって肘掛に足を乗せていた・・・から起き上がると、テーブルに眼鏡をカチャリと置いた。

「珍しいね、そんな格好」

 ああ、と蓮が苦笑する。

「確かに、いつもならやらないが。たまにはやってみたらどうだと言われたのを思い出して」

「誰に?」

「吉羅理事長だ」

 意外な名前が出てきた事に驚いた。

「意外だろう?」

 うん、と素直に頷いてしまって、あわあわと手を振った。

「あ、あの、違・・・」

「別に構わないだろう。俺だって最初はそう思った」

 でもそう言えば、理事長室のソファでよく横になってるの見たことある・・・と言いそうになって慌てて飲み込んだ。そんなことを言ったら目の前の伴侶は焼きもちを焼くだろうから。

「足を上げて眠るのは、下がった血行を戻す効果があるんだそうだ。疲れている時にやるといいらしい」

「蓮、疲れてるの?」

「いや」

 横になっていたソファに座ると、すかさず蓮の手が伸びてきた。

「君をこうするために、体力を温存しておこうかと」

 蓮の手が、スルリと着ていた服の下を滑る。

「ちょっ・・・」

「俺にも、結婚記念のプレゼントをもらってもいいだろうか」

「私なんにも・・・ちょ、っと・・・蓮!」

 パジャマの下は何も身に着けていない。
 あっさりと彼の指が私のウィークポイントを捉えた。

「プレゼントは、君だ。香穂子」

 この人の囁く声に私は弱い。
 抗う術もなく、私は彼の指に踊らされ始めた。





「一人で大の字になって寝てみたかったのに」

「じゃあ同じサイズのベッドを買おうか?」

「2つ?」

 それは無理だから一つだなとしれっと言う唇が憎らしい。

「じゃあ意味ないじゃない」

「俺がいない間はできるだろう?」

「そっか、そうだね」

 あっさりと頷いてみせると、蓮が大きなため息をついた。

「それに、今使っているベッドだって同じだろう?」

「同じじゃないよ」

 言ってしまってから、しまったと気が付いた。

「なぜだ?」

 理由があまりにも恥ずかしすぎる。
 言いたくなくて黙っていると、まだ先ほどの熱が冷め切らない指先が、私の肌を滑り始めた。

「香穂子」

 更には私が弱いと知っている、その声。
 陥落するには充分だった。

「・・・が・・・」

「え?」

 蓮が耳を寄せる。形のいい耳だ。
 思わずそこに口付けた。

「・・・!」

 びくっと蓮の体が揺れた。
 もしかして。

「耳、弱いの?」

「え、いや・・・そういうわけじゃ・・・」

 そう言う間にも指でくすぐってみたり。
 逃げる蓮の耳元に何度も息を吹きかける。

「ぅ、あ・・・っ、香穂子!」

 その声の艶やかさに、こちらが驚くほどだった。
 一瞬の隙を狙って、蓮が私を組み敷く。

「・・・責任、取ってもらおうか」





「それで?」

「え?」

 呼吸も整わないうちに、蓮が問うた。

「今使っているベッドが、このベッドと同じじゃない理由だ」

 余韻が残っていて、思考がうまくまとまらない。
 何も考えられなかった。

「蓮の・・・が・・・」

「え?」

「匂いがするの。蓮の匂い。一緒のベッドだと、匂いが残ってるから。蓮がいない時にその匂いに包まれてると寂しいんだもん・・・」

 絶句する気配。

「そうやって朝が来ると、また蓮がいない一日が始まるんだなあって。帰ってくる日は、楽しみすぎて寂しいんだよ」

 




 ほどなくして、蓮の腕に力が入った。

「香穂子。・・・どれだけ俺を煽ればいいんだ・・・」

「あおる?」

 包まっていた毛布の中で、また蓮の指がもぞもぞと動き出した。

「責任、取ってもらうから。君もそのつもりで」

「責任?」

 さっきから鸚鵡返しにしか返事をしてないことになんか気付かず、私はぼうっとした頭をそれなりに働かせようとしていた。

「どれだけすれば満足するか、俺にもわからない。だから、君もそのつもりでいてくれ」

「え?」

 聞き返したってムダだった。
 私の体の上を、好き勝手に動くその指先に、私はあっという間に翻弄されていった。






ヒトリゴト。(ブログより一部

えーと。

月森の匂いが残ってるベッド(毛布)に包まって寝るのが寂しい、というところに今回のお題をもってきたかったのですが・・・わかりづらすぎる(すみません