こぼれる涙の名前すらもつけることが出来ない




 

 最終搭乗アナウンスが、俺たちの間に立ちふさがった。

「もう・・・行かなければ」

 泣いていない、と涙を零しながら懸命に上を向いて堪える君の姿を、俺はずっと忘れないだろう。
 ひとつだけ、覚えておいてほしい。
 俺も君と同じ気持ちなのだと。

「それじゃあ・・・行ってくる」

 堰を切ったように溢れ出す君の涙を拭ってやることもできずに、俺はその涙から・・・君から、背を向けた。
 今は遠く離れ離れになる寂しさや辛さしかないけれど。
 でもそれを乗り越えた時には、きっと・・・いや、必ず。
 君を迎えに行くから。







 機体が轟音と共に加速していき、やがてゆっくりと浮き上がる。
 今まではさして思うこともなかったけれど、君との別離を選んだ今、離陸する瞬間に君から離れていく自分を重ねてしまう。
 ああ、これで。
 君を迎えに行くまでは日本に帰れないのだと・・・そう、思ったら。
 帰れないことにじゃなく、君から離れてしまうことに、どうしようもない思いがこみ上げてくるのを感じた。

「・・・・・・」

 頬に熱い雫の感触。
 触れてみると、それは・・・物心ついてからはおそらく初めて流したであろう涙だった。

「かほこ」

 君が「泣いてない」と意地を張る理由が、少しわかった気がする。
 その涙に、名前をつけてはならないんだな。
 そうすることで、俺たちはまだ希望を持てる。



 けれど、今は。
 少しだけ・・・少しだけ。
 心から君への想いが溢れ出るままに任せていたい。
 名前をつけることすら叶わない、想いの雫。 

 

 

 

2010.5.13UP