嬉しい寝言と逃げた痕跡

 




 いつもは冷たい、月森の手。

 早く出て行ってくれと追い出されて怒って出てきたものの、後から手の熱さを思い出して走って戻ってみれば。

「余計なことをするな・・・!」

 保健の先生を呼びに行くと踵を返したところで手を掴まれて、そのまま気を失うように眠ってしまった月森の隣に座りながら、香穂子は途方に暮れていた。

 先生を呼びに行きたいが、月森が眠っていてもなお手を離す力を弱めない。

 更には頭が肩に乗っているせいで身動きすら取れない。

「困ったなあ・・・」

 せめて譜読みでも、と楽譜を取り出す。

 隣には苦手意識はあるが立派な青年。

 手を繋いで眠りこけていても、こんな所を誰かに見られでもしたら・・・

「誰も来ませんように・・・」

 携帯で助けを呼ぶなんてことはさっぱり思いつきもしないまま、香穂子は楽譜に目を落とした。



「・・・・・・」

 月森が何かを言っている。

 何だろうと耳を澄ませてみたが、穏やかな寝息が聞こえてくるだけだ。

 気のせいかとまた楽譜に目を向ける。

「・・・日野」

「はいっ!」

 思いのほかはっきりと呼ぶその声に思わず返事をすると、また寝息。

「・・・寝言〜?びっくりさせないでよ・・・」

 掠れた声で呼ぶその声はとても穏やかなもので、いつも尖ったような冷たさを含んでいないから余計に心臓に悪い。

「日野。・・・日野」

 何度も呼ぶその声にドキドキする。

 重ねられた手をギュッと握られた。

「日野・・・」

 だからもうドキドキするんですけど!と真っ赤になった顔を手でパタパタ仰いでみる。が、意味もない。

「お願いだから月森くん。起きて・・・!」



 はっ、と目が覚めた。

 外はカーテンも閉められていないからよく見える。

「真っ暗・・・。ちょっ、と!下校時間!」

 時計を見ると、下校時間ちょうど。

 ダッシュで正門をくぐり抜けた。

「・・・起こしてくれたっていいじゃない・・・!」

 熱を心配して戻ってみれば、先生を呼ぼうとする香穂子に「余計なことをするな」と捕まえた挙句眠りこけて、更に起こしてくれずに自分だけ先に帰るとは。

「ひどすぎる・・・!」

 職員室にいた金澤に月森の住所を聞いて、ジャケットを返す為に地図を見ながら香穂子がぶつぶつと独り言を・・・かなり大きい声で・・・呟いた。

「なんで逃げるみたいにして帰るかなあ?」

 後で問い詰めてやる。

 実際には会ったらあの冷たい表情に負けて何も聞けないんだろうなと頭の隅で思いながら、香穂子は月森の住所が書かれた地図を握り締めた。









ヒトリゴト。(ブログより


タイトルまんま(笑

このシーンしか思い浮かばず・・・アニメで土浦と火原に会う直前あたりを想定しています。

私あの練習室で二人が眠ってしまうシーン、好きです。

あれで月森ファーストになりましたからね!(きっぱり

 

 

 

 

2010.10.4UP