階段下で聞いた君の台詞

 




 

 今日は一緒に昼食を取れないと言われて、一人でカフェテリアで済ませると、いつものように屋上へと向かう。
 練習も一緒にできるかわからないと言っていたが、きっと来るだろうと思っていた。それに最近は香穂子の練習を見ていた分、自分の練習時間が減っているこ とも事実だ。・・・それをどうこう思ってはいないが、何かあればこのことで足を引っ張られるだろうことは目に見えている。だから常に自分のレベルを落とす わけにはいかない。落とすつもりもさらさらないが。

「・・・じゃないの?」

 ふと、聞き覚えのある声が耳に入った。この声は・・・

(天羽さんだ)

 月森の苦手とする部類の人間だ。報道部として追い掛け回されるもは勿論だが、彼女を一番苦手だと思うところは「取材」と「友人」を一瞬にして切り替える ことだ。読者のニーズとかいう下らない(月森はそう思っている)ゴシップのようなネタで追い掛け回し、即座に拒否すれば「友人」としての顔に変わる。そし て香穂子の事を心底心配してみせるのだ。意識してやっているのかは知らないが、月森にとってはタチが悪い。何より「香穂子の親友」という席にどっかりと 座ってしまっている上に、香穂子も天羽のことを信頼しているからだ。

「何でそんなこと聞くの?また『読者のニーズ』?」

 からかうような声で応じたのは。

(香穂子)

 やっぱり来ていたのか。
 声をかけようと階段下から口を開いたその時。

「友達として聞いてるの。いつもいつもネタとして追いかけてるわけじゃないんだからね」

「あはは、ごめんごめん」

 天羽が言うとどれほど嘘くさい(と月森は思っている)のかわかっているのだろうか。

「月森くんには、本当に良くしてもらってるよ。自分の練習時間削らせちゃってるからね、その分頑張らないと・・・って思っててもなかなか難しいのよねー」


「あんたは頑張ってるよ、ホントに。だからもっと自信持っていいと思うよ」

「ありがと、天羽ちゃん」

 確かに、香穂子はもっと自信を持っていていいと思う。少しの自信のなさが音色にも現れていて、だから「もっと堂々としていい」と常々言っているのだが。

「月森くんにも同じこと言われるよ。もっと堂々としてろって。でもさ、・・・私には、できないよ」

 え、と天羽が問い返す。月森もまた目を見開いた。

「だってさ、ヴァイオリン弾いてて思うもの。月森くんには敵わないなあって。追いつきたいと思ってるけど、そう思うことも許されないくらい遠い人なんだな あって、時々思うんだ。私には私のペースがあるし、月森くんには月森くんが今まで培ってきた時間とか労力とかがあるから敵いっこないのは、よくわかってる んだけど」

「日野ちゃん・・・」

 ふふ、と香穂子が小さく笑った。

「でもね、月森くんを好きなことだけは自信持ってるから!ヴァイオリンでも追いつけるように頑張るよ!」

 月森の顔が一気に赤らんだ。ヴァイオリンケースを持っていない手で、口元を押さえる。

「あーあーあーあー、はいはい!結局そこなのね!わかったよ、好きにしなさいな」

 うん!と元気よく頷き返した香穂子に「じゃあね」と言うと、天羽が階段を下りてくる音が聞こえた。とっさに隠れようとしても、時すでに遅し。

「・・・ガールズトークを盗み聞きとは、許せないなあ」

「盗み聞きじゃない。・・・君たちがいつ誰が来てもおかしくないような所であんな話をしているからだろう」

「真っ赤な顔しても説得力ないよ?」

「・・・!」

 ま、今回は許してしんぜよう。
 あははと笑いながら天羽が階段を下りていく。・・・しばらくはこれをネタにされて「取材」を拒否できることはないだろうとどこか遠くで思いつつ。

 屋上へ続くドアを開けた。








ヒトリゴト。(ブログより

お題カテゴリが「素直じゃない僕」なんですが、どっこにもそんな場面出てきません・・・
書きながらお話考えてると、大概こういう残念な結果に終わります(涙

2011.4.18UP