| 君がささやくその言葉にどれだけのリアリティーを込めているの |
君はよく「好き」という言葉を使う。
おいしいものが好き。
綺麗な風景が好き。
学校が好き。
ヴァイオリンが好き。
俺のことが「好き」。
その言葉の現実味を、君はどれほど理解しているのだろうか。
君が言う「好き」の先を、期待してしまっても、いいのだろうか。
「月森くんは?好き?」
「え?」
少し思考が彼女に向いていなかったほんの数秒、香穂子が何かを問うた。
「すまない、聞いていなかった」
「もーっ、・・・いいけどね」
「香穂子」
なあに?と柔らかい声。
「君の言葉に、俺は何度も助けられた。今度は俺がそれを返したい」
「ん?」
「好きだよ、香穂子」
「急にどうしたの?・・・私も好きだよ」
君の言う「好き」は、俺には少し意味合いが違う。
それを、分かっているのだろうか。
「君のその言葉に、俺は・・・その」
言ってもいいのだろうか。
俺の迷いを知っているかのように、香穂子の優しい声が継いだ。
「おんなじだよ。いつだって。月森くんの想ってることと、・・・私だって、同じなんだよ」
「・・・香穂子・・・」
言葉を継げない俺を、まっすぐな視線が射抜く。その瞳の向こう側に、俺と同じ感情を・・・見た気がした。
「ありがとう、香穂子」
今はそれだけでいい。
想いの行方が最終的にどうなるのかなんて、わからない。
それでも、今、この瞬間に抱いた気持ちを共有することができたのなら。
それでいいと思えた。
「また、明日」
「うん」
気をつけてね、という言葉に軽く手を上げて。
普段の道のりを何となく違う気分で帰途についた。
2010.12.3UP