| この指先から言葉を感じ取ってくれ |
屋上から校舎へと続くドアを開ける。
つい先ほど終わった学内コンクール。終わったら告げようと思っていた想いを告げて、告げられて。
この階段を上った時は一人だった。でも今は。
「二人、なんだな」
「ん?」
繋いだ指先がふと動く。半歩後ろを歩いていた香穂子が月森の顔を覗き込んだ。
「何が二人なの?」
「この階段を上った時、君も俺も一人だった。伝えたい想いを抱えて、本当に叶うかもわからなかった。でも、今は」
「・・・二人」
月森が小さく頷いた。
「これから先、君と過ごせる時間が楽しみだ」
「私もだよ、月森くん」
彼女の少し高い、それでいて柔らかい声で呼ばれる自分の名前。今まではコンプレックスでしかなかった。でも今は、香穂子に呼ばれることが素直に嬉しいと思う。
「香穂子」
「うん?」
優しい瞳。琥珀色の、透明で、素直で、不器用な。
「・・・・・・」
何度か口を開いては閉じ、結局ふいと視線を逸らしてしまう。・・・目元が赤い。
それまでは指先だけで繋がっていた二人の距離。月森がぎゅ、と力強く握ることでより近くなった・・・気がする。
「そんなに見ないでくれないか」
視線だけでなく顔まで逸らしてしまいながら、月森が言った。
「恥ずかしいんだ?」
からかうような口調に「・・・違う」と言ってみても説得力があるわけもなく。
「ふふ、月森くん、かーわいいなあ」
かわいい、と言われるにはかなり抵抗があるのか、じろりと睨む。目元だけではなく顔全体を赤くしながら睨まれても怖くもなんともない。
「月森くん」
香穂子が繋いだ手を握り返す。繋いだ指先から伝わる想いが、間違いなく届きますように。
そしてその願いは寸分違わず届いた。
「香穂子・・・」
ぐ、と引っ張られる。
少したたらを踏んだ先で、月森の優しい腕が包み込んだ。繋いだ手は離さず。
心臓の音がうるさいほどに高鳴っているのはどちらなのだろう。
きっと両方なんだろうなと小さく笑うと、香穂子はその温もりに目を閉じた。
2010.12.28UP