| 留守番電話に君の声を |
「ここにいるんだからいいじゃない」
「・・・ダメなら、いいんだ」
そんなやりとりが繰り返されること数回。
折れたのは、香穂子だった。
「もう、しょうがないなあ」
小さくため息をつくと、香穂子がバッグから携帯を取り出した。
ちらっと俺の顔を見ると、携帯を操作して通話ボタンを押下する。
数秒で俺の携帯が鳴り出した。が電話には出ない。
無機質な呼び出し音が早く終わるといい。
その後には香穂子の声が聞けるのだから。
しばらくすると、香穂子がまた俺を見た。
何も言わずに、俺はじっと待つ。
ピーッという音が聞こえた。静かな部屋に、その音がよく聞こえる。
はあっと大きなため息の後に、俺から視線を逸らした。
「・・・月森くん。私も頑張ってるから。月森くんのおかげで、今の私がいるんだもの。いつか、音楽でまた通じ合える日がくること、待ってる。だから、・・・ずっと・・・」
ピーッという音がまた聞こえた。
メッセージが途中で終わってしまったが、それでもいい。
彼女の声が聞けるなら。
「ありがとう、香穂子」
「・・・電話してくれれば、いつでも出るんだから必要ないじゃない」
香穂子が未だに納得できないと言いたげに、携帯をパタンと閉じた。
「俺が聞きたいと思った時にすぐ聞きたいんだ。君が電話に出るのを待つ時間も惜しい」
バッグの上にあった香穂子の手を取った。
きょとんとしながら俺を見上げるその表情も愛しい。
「これで君の声をいつでも聞けるんだな。ありがとう」
「・・・どういたしまして」
仕方ないという顔で彼女が小さく頭を下げた。
「ところで、香穂子」
「なあに、月森くん?」
指先に小さく口付けて彼女のひざの上に手を戻す。少し顔が赤い。
「『ずっと』の後は何というつもりだったんだ?」
「え?」
「今の、留守番電話のことだ」
あっ、と小さく声を上げて、香穂子が更に赤くなった。
じっと黙っていると「あの、あの・・・えっと、ね」となかなか言ってくれない。
痺れを切らして、少々強硬手段に出た。
「つきも、り・・・くん?」
彼女の声で俺の名前を呼ばれるのはとても嬉しいし、心地いいと感じる。
抱き寄せた香穂子から、仄かにいい香りがする。女性特有の、柔らかい香り。
思わずその髪に鼻をすり寄せた。
「言ってくれないか。・・・かほこ」
耳元に、小さく。
願いを。
「・・・だよ、って」
「え?」
これだけの距離でも聞き取れないほど小さな声で、香穂子が何かを言った。聞き取れずに聞き返す。
「すまなかった香穂子。もう一度言ってくれないか」
「・・・ずっと、月森くんのこと好きだよ、って言おうと思ってたの!」
「香穂子・・・」
もういいでしょ、離してと手を突っぱねようとするのを力で押さえ込んだ。
そんな嬉しいことを言ってくれるとは。
「香穂子」
観念したのか、力をなくした手がパタリと下がる。俺のなすがまま、腕の中にいる彼女に小さく囁いた。
「俺もだ、香穂子。いつでも、どこにいても、君だけを想っている」
離れ離れなる日がもうすぐそこまで近づいている。
ずっと待っていて欲しいと何度となく口にしてきた願いだが、本当に待っていてくれると信じていられるほど幼くはない。けれどそうであってほしいと願ってしまう俺は、まだ子どもなのだろう。
たくさんの願いをこめて。
もう一度、言った。
「好きだよ、香穂子。君だけを、想っている」
ヒトリゴト(ブログより
ちょっと後半シリアスっぽくなってしまいましたね。
うーんでもまあ、久々に書きたい方向に書けたので、私は満足です。
2010.9.11UP