あなたを呼ぶ声は風にさらわれて

 




 空港まで見送ると言ったのは、少しでも長くいたいという言い訳を尤もらしくお互いに言い聞かせる為でしかなかった。
 二人とも、そのずっと奥にある気持ちに気付いていながら、気付かないフリをする。そうでなければ、人の目も気にせずにかき抱いてしまいそうだった。
 電車の中で手をつなぎ、ぽつぽつと会話を交わす。こうやってお互いの熱を知ることができるのも、あと数時間。

 ・・・あと、数時間。

 話したいことは山のようにある。けれど、今更のような気もして、結局その言葉たちは喉から先に出て行くことはなかった。
 何度も何かを言いかけては口をつぐむ。
 月森も、香穂子も。
 手のひらから伝わる熱だけを、必死で覚えようとしていた。





 自分から姿を消した。
 目の前にあるエスカレーターに乗っていく月森は、もう過去を振り返ってはならない。
 前だけを見て、まっすぐに進んでいってほしいから。
 だから。
 二人を隔てたガラスの向こうで、月森が目を閉じた一瞬に。
 香穂子は、身を翻した。

 「また、ね」

 小さく呟いて。





 轟音と、風。
 自分から姿を消したのに、それでもまだ未練がましくここにいる。
 月森には、みっともない自分をさらけ出したくなかった。
 綺麗なままの自分を覚えていてほしかった。
 ただ、それだけで。
 もう会えなくなるのかもしれない月森を、笑って送り出したかった。
 「・・・泣いてなんか、ないからね」
 また月森の姿を思い出して涙をこぼす。
 仕方がないなと言いたそうに苦笑して、小さくため息をついて。
 ほら、と手を差し伸べてくれる彼は。



 もう、いない。



 「・・・・・・・・・・・・・・・っ!」

 デッキの風がごうっと音を立てて香穂子の長い髪を乱した。
 その名を乗せた風が、願わくば。
 あの人の元へ届きますように。



 香穂子の願いを知ってか知らずか、月森の名を浚ったそれは、たった今離陸した機体へと向かって吹き流れていった。










ヒトリゴト。(ブログより

空港での見送り話は、このブログの一番最初に書いたので割愛。
ちなみに「切ない10のお題 ガラス越し」です。
切ないお話を書いてないなあ・・・とタイトルを探していたら、ネタ降臨。
金やんが迎えに来る話はこっちでUPしてたかな?実はそれが第一号なのですが、こちらではこちらの話で辻褄合わせんとね。