「声を聴かせて」の続きです。
それではどうぞ!
| 君にこの声が届きますように |
無機質なツー、ツーという音が聞こえている。
たった今切れた、香穂子との通話。
これから大学に行くという香穂子の貴重な時間の中で、話せることは限られている。
今度はいつ日本に帰るとか、今はこんな楽曲に挑戦しているとか。
俺のほうは音楽漬けの毎日でさして代わり映えしないから、主には香穂子の話題が中心になる。
友人が多い彼女は、話題に事欠かない。たくさんの人たちに囲まれているのは、高校から変わらないようだった。それが香穂子のいいところだと思う。
「高校・・・か」
中退してでもヨーロッパに、本場の音楽に早く身を浸したかった。たとえ香穂子と離れ離れになっても。
迷わずに、香穂子にさえも相談せずに決めた留学は、二人の未来の為だと思ってきたし、今でもそう思っている。
けれど。
俺が弱かったから、彼女を苦しめることになったことは後悔してもしきれない。
待っていてほしいと、あの時、言っていたら。言えたなら。
「・・・今更、だな」
自嘲気味にため息をひとつついて、俺は携帯のフリップを閉じようと指に力を込めた。
何となく思い直して、何の変哲もない画面に目を落とす。
未だにツー、ツーと聞こえるその音が。
君へと通じているような気がして。
携帯を耳に当てた。
夜、という状況もあったのだろうと思う。
日の光がない、物事を闇に隠してしまう今ならば。
何でも言える気がした。
「香穂子」
きっと今頃は慌しく出かける準備をしているだろう。
そんな様子が目に浮かんで、頬が緩む。
「君は、待っていてくれたんだな。たくさんの人たちに支えられて、俺を・・・信じていてくれた。俺はこれから、君のその想いに応えていくつもりだ。長かった4年分の君の気持ちを、俺は音楽で返していこう。だから、・・・香穂子」
外は闇。
少し長く息を吸って、ゆっくりと吐き出した。
「君を、俺が全て貰い受ける。全部、俺のものだ」
何もかも。
髪の一筋にいたるまで。
俺の弱さから俺を、君を、苦しめたあの4年の間のことも全て。
それが俺にできる方法だから。
カーテン越しに月明かりが照らす。
闇夜でも、太陽は全てを覆い隠すことを許さない。あの月明かりでさえ、太陽の光の一部なのだ。
君の全てを俺が貰い受けるならば、俺は全てを君に明かそう。
折に触れて、君への想いを。俺の気持ちを。
この月明かりがいつか君の元へ届くように、この声も届いてほしいと願いながら。
小さく、呟いた。
「愛している、香穂子」
ヒトリゴト。(ブログより一部
再会後だけど、月森はまだ留学中。
補足しておくと、留学後から大学4年の春までは音信不通。春に再会して婚約、翌年秋頃に結婚するというマイ設定で基本的にお話を書いています。
再会話はカテゴリ「きみにあいにゆくよ」で書いてます。
ちょっと私の計算がおかしいらしいことに今気がついた・・・やばい・・・!
2010.10.6UP