「月森くんってさ、なんかしつこそうだよね」
どこからこんな話になったのか一瞬忘れてしまうほど、その一言は強烈だった。
森の広場で友達とお昼ごはんを食べながら、それぞれの彼氏の自慢話から困った所に話が移って、どういうわけか香穂子の苦手とする分野の話に及んでしまっていた。
つまり、体の関係の話である。
「えー?」
どうにか回避したくて、とぼけてみたり笑って誤魔化そうとしてみるのだが、騙されてくれない。
それどころか言いたい放題の呈を要してきた。
「弱いところとか見つけたら徹底的・・・っぽくない?」
「あー・・・」
それはある、と頷きかけて「いやいやいやいや!」と手を振ってみたりもするが、すでに香穂子の言う事などお構いナシに話が進んでいく。
「俗に言う・・・」
「「むっつり、ってやつ?」」
友達が一斉にあははと笑い出し、香穂子は諦めて食べかけのおにぎりに向かって盛大なため息をついた。
放課後。
練習室に向かいながら、月森は無性に腹立たしさを抑えられないでいた。
聞いてしまったのだ、昼休みの香穂子達の会話を。しかも、人づてに。
大きなお節介で(とは言わないが)教えてくれたクラスメイトには「・・・そうなのか?」と真面目に聞かれる羽目になった。
普通科棟からは距離があるから、いつも月森が先に着く。そうして彼女が来るまでのわずかな間に、自分の練習をしているのだが、今はヴァイオリン ケースを開ける気にすらなれなかった。
狭い練習室をただうろうろと歩き回る。
「お待たせ、月も・・・」
ドアを開けてもヴァイオリンの音がしない。
ぱっと見、月森の姿がないからいないのかと思ったが、入り口から死角になる奥のほうで、壁に寄りかかって腕を組んでいた。・・・かなり怖い形相で。
「どう、し・・・」
「君は、友達とあんな話をして俺を馬鹿にしているんだな」
「なんのこと?」
月森を馬鹿にするような話なんてしないし、するつもりもない。しかしそう言われるような何かがあったということだと、しばし考える。
「・・・もしかして、昼休みのこと?」
無言が返事。
聞いてたの?と尋ねたら「近くにいたのがクラスメイトだったんだ」と返ってきた。あちゃー、と香穂子が手を顔に当てて天を仰いだ。
「すっごい偶然というか・・・」
「で?」
「え?」
組んでいた腕をほどき、アスコットタイに手をかけた。ピンが弾けるように飛んでいき、しゅる、と微かな音を立ててタイを外す。ブレザーのボタンを慌しく外していくあたりで、香穂子はようやくこれから自分の身に起こるであろう事態を予測できた。
「ちょっと待って、月森くん!」
「君は何と答えたんだ?」
「え・・・」
「いや、返事はいい。君の体に聞いたほうがよさそうだ」
そう言う間にも、ジャケットを脱ぎ、ベストとシャツのボタンを物凄い勢いで外していく。
香穂子は月森の行動を止められずに、体が硬直したかのように動かせないでいる。
「遠慮はしないから」
香穂子の制服のタイを抜き取るなり、冷たい指先が裾をめくって滑り込む。
その突然の冷たさに身を竦めるが、言葉通り、月森の指は止まらない。
「君の体に負担をかけたくないからと思っていたが・・・そんな配慮はいらないな」
どうせならもっと早く知っておけばよかった。
そんなことを呟きながら、月森の長い指が香穂子の顎を捉えた。
「こんな理性は、邪魔なだけだ」
それならば早々に捨ててしまうに限る。
言うなり、息が継げないほど深く唇が重ねられた。
スカートの裾から進入してきた指先に、下着の金具を器用に外してその中に潜り込んできた指先に、どうしようもなく翻弄されて、香穂子はただ溺れるように月森の腕の中であえぐだけだった。
「ちゃんとあれから『違う!』って言ったんだよ!」
時間が経つにつれて冷静になってきて、月森もようやく頭が冷えてきた。
「・・・そうか」
もうっ、人の話も聞かないで!と香穂子は憤慨している。
何度目かの極みを上り詰めてから、ようやく自分が何をしたかを理解したのだ。
突然「・・・すまない!」と体を離されるころには、香穂子の体はもう溶けきっていた。
「今度からはちゃんと君に確認も取る」
「・・・そんな確認するの?」
「ああ」
そうじゃなかったら、また今みたいになるかもしれない。
強引に彼女を奪うようなことは、もうしたくない。抵抗も拒絶も最初のうちだけだったけれど。それでも本気じゃないことを本能でわかっていたから、少し強引でも受け入れられたのだ。
「だから、教えてくれないか」
「・・・え?」
「その『むっつり』とは、何だ?」
香穂子は、盛大なため息をついて、がっくりと脱力するのだった。
2010.10.15UP